がん 転移なければ「切除」縮小

東京都の会社員C子さん(43)は2010年5月に健康診断で胃がんの疑いを指摘された。
翌月、慶応大病院(新宿区)で詳しく調べたところ、胃の入り口側に、4センチ近くのがんが見つかった。

診察した一般・消化器外科の北川雄光教授によると、がんが2センチ以下で粘膜内にとどまっているならば、口から内視鏡を入れ、がんと周囲を粘膜の下から剥ぎ取る治療が行える。
しかしC子さんのがんは2センチを超えていたため、北川教授は手術を勧めた。

問題は切除する範囲だった。
胃全部と、転移の心配がある周りのリンパ節をまとめて切除すれば再発の心配は最も少なくなる。

ただし、胃袋がなくなると、食事は少しずつ時間をかけて食べなければならず、生活に不便が生じる。
短時間に小腸に多くの食べ物が流れ込むと、腹痛や下痢を起こすほか、動悸やめまい、脱力感などを引き起こすこともあるからだ。

そこで、同大では、がん細胞が最初に流れ着くリンパ節を手術中に短時間で検査し、転移の有無を調べた後で、がんが見つからない場合、切除の範囲を縮小し、胃を3分の1程度残す方法を取っている。
北川教授は「再発の危険性を抑えつつ、胃の機能温存との両立を図っている」と話す。

手術ではまず、胃を3分の2とリンパ節を切除する。
がんが最初に転移するリンパ節(センチネルリンパ節)を確かめるため、リンパ管をゆっくり流れる放射性物質の薬剤を手術前日に胃の粘膜に注射しておき、さらに手術中は色素をがんの周りに注入して色でもリンパ節を確認する。

薬剤が流れ着き放射線検出器に反応するセンチネルリンパ節を、転移がないかどうか顕微鏡で見て調べる。
転移がなければ手術は終わり、あれば範囲を広げて切除する。
04年から4年間の臨床研究で397人の患者をこの方法で手術したところ、4センチ以下の早期がんであれば、正確に転移の有無を診断できた。

C子さんは3分の1の胃を残すことができた。
手術は、腹部に小さな穴を開けて手術器具を差し込む腹腔鏡で行ったので、傷も5センチ程度で済んだ。7月上旬に退院。
手術前に比べ、食事量は少なめだが、「本当に手術したの、と周りに言われるくらい元気」と話す。

同大は、国内の十数施設と共同の臨床研究を計画中だ。
北川さんは「後遺症を最大限軽くできるように、一歩ずつ慎重に進めている」と話している。

出典 読売新聞 2011.12.15
版権 読売新聞社

<私的コメント>
がんは思わぬところに転移していることがあります。
原発の場所から遠く離れたところに転移していることを「遠隔転移」といいます。
こういった転移は、当然のことながら術前に検査がされているはずです。


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