川崎病の後遺症予防対策

川崎病、後遺症予防へ一手 心臓の血管異常 減らす治療法、免疫製剤・ステロイド剤併用

発見から45年以上たってもなお発症原因が分からない川崎病
乳幼児に多い病気で、まれに心臓の血管に瘤(こぶ)ができ、何年もたって心筋梗塞を引き起こす場合がある。
最近、こうした後遺症を防ぐ有効な治療法が見つかった。
ゲノム(全遺伝情報)解析で病気との関係が深い遺伝子も少しずつ判明しており、血液検査で発症しやすさなどを診断できるようになる期待もある。

日常生活にも影響
生後7カ月の息子が川崎病と診断され、1週間ほど入院して家に戻ったがこのまま何もしなくて大丈夫だろうか――。
東京都内にある特定非営利活動法人NPO法人)の日本川崎病研究センターには、母親などから相談の電話がかかってくる。
「検査で心臓に瘤がみつかっていなければ心配いりません」と病気の発見者で小児科医の川崎富作理事長は答えている。

川崎病は主に4歳以下の乳幼児がかかり、生後数カ月~1歳の患者の比率が高い。
発熱、目の充血、発疹、手足の末端が腫れて赤くなるなど炎症を伴うのが典型的な症状だ。
「高熱が5日以上続いたら要注意」(川崎理事長)。
早めに血液製剤の一種である「免疫グロブリン製剤」を処方すれば大抵の場合、炎症は治まる。

東邦大学医療センター大森病院小児科の佐地勉教授は「発症から9日目までにすべての炎症を沈静化させるのが基本」と指摘する。
炎症が長引くと、心臓に酸素や栄養分を送る冠動脈に障害が起きる恐れがあるからだ。
免疫グロブリン製剤が効かない重い症状だと冠動脈瘤ができる危険も高まる。

長年、川崎病の全国調査を実施している自治医科大学の中村好一教授(公衆衛生学)によると、患者の15~20%は免疫グロブリン製剤が効かない。
その7~8割は冠動脈が拡大するなどの合併症を起こす。
多くは自然に元に戻るが、冠動脈瘤などの後遺症を伴う患者も全体の約3%いる。
親指大の巨大冠動脈瘤ができるケースもあり、心筋梗塞を避けるために運動を控えるなど日常生活にも影響が出る。
<私的コメント>
心エコー検査は冠動脈病変が好発する第10病日前後で行います。
異常が認められない場合には、念のため発病後6週で再検を行います。

こうしたなか東邦大学群馬大学のグループは、症状の重い患者でも免疫グロブリン製剤とステロイド剤を最初から併用すると冠動脈の異常を効果的に防げることを大規模な調査研究で確かめた。

免疫グロブリン製剤だけで治療した例と、ステロイド剤を併用した例をそれぞれ121人ずつ無作為に選び、経過を比べた。
併用の方が冠動脈の異常が明らかに少なかった。
巨大冠動脈瘤ができた例はなかった。英医学誌のランセット(4月28日号)に載り、話題を呼んだ。

承認申請を準備中
ステロイド剤は膠原病など炎症を伴う病気の治療に広く使われている。
川崎病には不向きとする指摘もかつてはあったが、今回の研究で特にひどい副作用は見られなかった。
佐地教授らは製薬会社と協力し、ステロイド剤が川崎病の急性期の治療薬として認められるよう、承認申請を準備中だ。

佐地教授らは血中ナトリウムや肝機能の指標となっている「AST」と白血球の一種である好中球の量などから、川崎病が重症化する可能性を予測する手法も考案した。
免疫グロブリン製剤とステロイド剤を併用するかどうかの判断に役立てる考えだ。

自治医大の中村教授らの調査では、川崎病で全国の小児科を受診した患者は2005年以降、毎年1万人を超え、10年は1万2000人を突破した。過去には1979、82、86年に患者数が跳ね上がり、その後は目立ったピークはないが、じわじわ増え続けている。

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川崎病の原因特定は難航を極めている。
患者は冬に多く、夏にもやや増える。過去の流行時には時間とともに患者発生地域が広がる傾向もあった。
何らかの感染症が引き金になっているとの見方が有力だが、「冬と夏で別の感染症がかかわっている可能性がある」(中村教授)。
学校や病院で人から人に川崎病が直接感染したとの報告はなく、原因ウイルスや細菌は謎に包まれたままだ。

人種別でもかかりやすさに差があり、米国の調査では日系人罹患率がもっとも高い。
ハワイに住む日系人罹患率は白人に比べて明らかに高く、日本国内並みという。
遺伝的な特徴が関係しているようだ。

千葉大学大学院医学研究院の尾内善広講師は理化学研究所の協力を得て、患者と健康な人の計約3800人を対象に遺伝子解析を実施。
ゲノム上で、病気と関連が深いと考えられる領域を3カ所見つけた。
一つは血管内皮細胞の表面にあり関節リウマチなど自己免疫疾患の関連たんぱく質である「CD40」とかかわりがあった。
もう一つも免疫細胞の働きに関係する箇所だった。

海外の成果も含めると、川崎病に関連するとみられる遺伝子領域はこれまでに6カ所判明した。
今後、シーケンサー(遺伝子解析装置)の普及などで研究がさらに進めば、遺伝子診断を通して川崎病の発症や重症化の可能性をあらかじめ調べ、適切な治療法を選べるようになるかもしれない。
編集委員 安藤淳

出典 日経新聞・夕刊 2012.6.15
版権 日経新聞


<私的コメント>
症状について書かれていないので少し補足します。

急に高熱が出て、発疹がみられ、目が充血し、唇が真っ赤になり、舌にイチゴの表面のような赤いぼつぼつが目立ち、頚のリンパ腺が腫れ、手足が腫れ、その後で指先から皮膚が剥ける場合があります。


<参考記事>
川崎病、複数細菌原因か…抗菌薬で治療成功
乳幼児の原因不明の難病・川崎病が、体内で大量に増えた複数の細菌の感染によって引き起こされる可能性が高いことを、順天堂大のチームが突き止めた。

従来の治療法では効果のない患者の治療にも成功しており、英国免疫学会誌電子版で発表した。

研究チームの永田智(さとる)・准教授らは、患者ののどや小腸に、毒性の弱いブドウ球菌や、ありふれたタイプの桿菌(かんきん)の仲間が、通常の10倍~100倍も存在することに気づき、詳しく調べた。

その結果、〈1〉ブドウ球菌によって免疫反応が強まり、高熱や腫れの原因になる〈2〉桿菌の仲間は血管内皮細胞にHSP60という特殊なたんぱく質を作らせ、これが免疫細胞の標的となり、冠動脈で過剰な免疫反応が起きる――ことを突き止めた。

炎症を抑える血液製剤を大量に投与しても効果がない患者7人に、ブドウ球菌や桿菌を抑えるST合剤という抗菌薬を投与したところ、6人が回復した。

研究チームの山城雄一郎・特任教授は「細菌の組み合わせによって症状が変わると考えられる。数滴の血液から細菌の種類を特定できるので、さらに多くの症例を調べれば治療法を確立できるだろう」と話している。

出典
読売新聞 2009.11.17



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