肺がんの個別化治療

肺がんの個別化治療… 遺伝子変異別に最適薬

手術ができない進行期の肺がんに対し、がん細胞の形や、遺伝子の変異によって薬を選ぶ「個別化治療」が進んでいる。 (館林牧子)

体の負担軽い「維持療法」も効果
肺がんは、がん細胞の形によって、「腺がん」「扁平上皮がん」「小細胞がん」「大細胞がん」などに分かれる。
腺がんは50~60%、扁平上皮がんは20%、小細胞がん10~15%、大細胞がんは5%程度だ。
扁平上皮がんと小細胞がんは、ほとんどが喫煙者で占められる。腺がんは、たばこを吸わない女性も比較的多い。

小細胞がんは、がんが小さなうちから転移を起こしやすいので、手術ではなく、抗がん剤治療が中心だ。

それ以外のがんを「非小細胞がん」と呼び、早期なら手術と抗がん剤(ごく早期は手術のみ)で治療する。
転移がなくがんが3センチ以下のごく早期の場合、5年生存率は8~9割だ。

ところが肺がんは早い段階だと症状が出ないことが多い。
約半数は他の臓器に転移した状態で発見される。
こうした進行期の肺がんに対して、最近、遺伝子の変異に応じた薬を使う治療が進んでいる。

ザーコリ(一般名クリゾチニブ)は今年3月末に承認された。
近く保険適用になる見通しだ。
ALK(アルク)という遺伝子の異常がある非小細胞がんに効果がある。
2006年に自治医大(栃木県)教授の間野博行さんが、この遺伝子に別の遺伝子が融合することで肺がんが起きることを発見。
その後、異例の速さで薬が開発された。

この遺伝子の異常は、肺がんの中でも特に腺がんに多く、日本人では腺がんの約4%で見つかっている。海外の臨床試験では、この遺伝子に異常がある人にザーコリを使うと、5~6割の患者で、がんが30%以上縮小した。
副作用としては肝不全の死亡例がある他、間質性肺炎視覚障害などの報告がある。

間質性肺炎の副作用が問題になったイレッサ(一般名ゲフィチニブ)は、その後、EGFRという遺伝子の変異がある患者で、がんの進行を遅らせられることがわかった。
日本人の腺がんの約50%にはこの変異があり、現在は変異がある場合に限って使われる。

このほかにもKRAS、HER2、RETなど肺腺がんの遺伝子変異は続々と見つかっており、「遺伝子の変異に応じた治療は今後も広がる可能性がある」と横浜市立大市民総合医療センター(横浜市南区)准教授の坪井正博さんは話す。

進行、再発がんでは従来の抗がん剤を使った「維持療法」も注目されている。

これまでは、まず強力な抗がん剤でがん細胞をたたいた後、多少がん細胞が残っていても、再び増大するまでは何も治療はしなかった。
維持療法は、最初の治療が終わった後も、継続して体に負担の少ない抗がん剤を継続する。
副作用が比較的小さいアリムタ(一般名ペメトレキセド)という薬が使われることが多い。
扁平上皮がん以外の非小細胞肺がんに効果がある。

がん研有明病院(東京都江東区)呼吸器内科部長の西尾誠人さんは「進行・再発期の肺がんでもこれらの治療でがん細胞を小さくし、生活の質を保ったまま暮らせる期間を延ばせるようになっている」と話す。

【肺がん】 
年間死亡者数は、男性は約5万人でがん死亡で最多、女性は約1万9000人で大腸がんに次いで多い50歳以上に多いが、特に70歳代の高齢者で激増している。

出典 読売新聞 2012.5.12
版権 読売新聞社


<番外編> 健康寿命
■一生のうちで健康に支障無く自立した日常生活を送れる期間を健康寿命という。
2010年の日本人の健康寿命の平均は男性が70.42歳、女性が73.62歳。
平均寿命とは男性で約9年、女性で約12年の差がある。
健康寿命の長い地域は愛知県や静岡県などで、男女とも3位以内。
一番短い県と比べると3年弱の差がある。
東京や大阪などは、いずれも平均以下だ。
日経新聞・夕刊 2012.6.15)
<私的コメント>
愛知県や静岡県は人口辺りの医師数やベット数が国内上位ではありません。
もし数字上で医療環境がよさそうな県が、健康寿命が短いという結果なら皮肉というしかありません。
上位県の分析も必要ですが、医療の充実度と健康寿命についての分析も必要です。
平均寿命から健康寿命を引いた年数分を医療の役割だとしたら、日本の医療体制を考え直す必要があります。
どうでしょうか、厚労省さん。


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