しびれ・体からのSOS

見過ごすと命とり!? しびれ・体からのSOS

正座して足がしびれる経験は誰にもあるものですが、恐い病気の前触れとなる「足のしびれ」もあります。「しびれくらいでは……」と病院に行かない人も多いようですが、甘く見てはいけません。
足のしびれは、寝たきりにつながる病気や、命に関わる病気のサインである可能性もあるのです。
その病気は、しびれの正体を知れば見えてきます。
そして、しびれの見分け方と改善法とは。
※今回は、「足のしびれ」を引き起こす、血管の病気である「閉塞性動脈硬化症(へいそくせい・どうみゃくこうかしょう)」と、腰の病気である「腰部脊柱管狭窄症(ようぶ・せきちゅうかん・きょうさくしょう)」を紹介するとともに、「しびれ」とは何かをお伝えするものです。

「徹底比較!二人のしびれ」

不思議な共通点「歩くとしびれる」?
全く違う病気にかかった2人の男性の体験談を聞くと、その症状には不思議な共通点がありました。
それは「歩くとしびれる。
ちょっと休むとすぐ治り、また歩ける」という症状です。
しかし、実は1人が「命に関わる病気」、もう1人は「寝たきりにつながる病気」だったのです。
ゴルフが趣味のAさんは、外に出かけると左足がしびれるようになりましたが、立ち止まるとすぐ治るので気にもとめませんでした。
しかし3か月後には、次第に歩ける距離が短くなっていきました。
そこで病院で検査を受けると、「即入院、手術」と言われたのです。
一方、タクシー運転手のBさんも、歩くと両足にしびれが出ていました。
症状はじわじわ進行し、1年ほど経つと、ちょっと立っていただけで足全体がしびれるようになったのです。
そしてある日、Bさんは激痛に襲われ、その後2か月間、強い痛みに悩まされることになりました。
2人の症状は似ていますが、実はまったく違う病気なのです。
その違いを知る前に、そもそも「しびれ」とは何かを探っていきましょう。

「しびれと感覚神経の関係」

しびれの正体を探るため、まずは身近な「正座のしびれ」をじっくり観察してみましょう。
大学の茶道部と柔道部の協力を得て正座の我慢対決をしたところ、茶道部が圧勝しました。
次に、正座している時の足の裏の感覚テストを行いました。
すると、しびれている時は「触った/熱い/冷たい」という感覚が混乱したり、最終的にはまったく感じなくなってしまうことがわかりました。
その一方で、「痛い」という感覚だけは、最後までなくならないのです。
しびれている時、足では何が起きているのでしょうか?

しびれは神経のパニック状態
正座をすると足の血行が悪くなります。
この時「しびれ」の発信源となるのが、血液不足に弱い神経細胞です。
しびれは「痛い/熱い」などの感覚とはまったく違う仕組みで起きています。
神経は「痛い/熱い/触った」などの感覚ごとに独立していますが、「しびれ」を担当する神経があるわけではありません。
血液不足でパニックを起こした神経は、足に刺激がないのにデタラメな信号を出します。
実は、これがしびれの正体です。
さまざまな感覚から同時にデタラメの信号を受け取った時、脳は「しびれ」と感じるのです。

正座をしていると感覚がなくなってしまう理由
血液不足がさらに続くと、「触った/熱い/冷たい」などの感覚を伝える神経が次々とダウンしてしまい、感覚を伝えられなくなります。
これが“足の裏の感覚がなくなった”状態です。
完全に麻痺する前に感覚の混乱が起こり、熱い刺激を冷たい刺激に感じたりする場合があります。

正座をしているとだんだん「痛い」しびれになる理由
感覚を伝える神経の中で「痛い」を伝える神経だけは、他の感覚神経が完全にダウンしてからもデタラメ信号を出します。
そのため長時間正座を続けると、ビリビリという「痛い」しびれが出てくるのです。
神経がダウンしていることは、最新の医療機器を使った神経伝導検査でも確かめられました。
膝から下の神経が情報を伝えられているかどうか調べてみると、30分正座した後は信号が伝わらなくなっていることがわかりました。
しびれの正体は、血液不足でパニックになった神経が出す“デタラメ信号”だったのです!

まさか!足のしびれが動脈硬化のサイン
しびれの正体が分かると、2人の病気が分かってきます。
Aさんの、足に血液を送る太い動脈の写真をよく見ると、片方の血管が非常に細くなっていることがわかります。
実はAさんの病気の名前は「閉塞性動脈硬化症」というもの。左足に血液を送る動脈が詰まっていたのです。
動脈硬化というと、一般的には心筋梗塞脳梗塞が連想されますが、足に起こる場合も多く、完全には詰まっていないため、日常生活には問題ないのですが、歩くと足に多くの血液が必要になるため「しびれ」が起きるのです。
この状態で運動を続けると、筋肉からも強い痛みが出てきます。
この病気にかかっている場合、脳や心臓にも動脈硬化が進んでいることが多くあります。
あるアメリカの調査では、Aさんと同じ症状がでた患者の2割が、5年以内に心臓病や脳卒中になっています。
※このタイプのしびれ・痛みを感じたらすぐに「循環器科」を受診して下さい。
見分け方などは後述。

「もう1つのしびれの正体は?原因は「腰」に!」

では、もう1人、Bさんのしびれの原因は何だったのでしょうか?
ある日、路肩に倒れていたバイクをひき起こそうとした瞬間、Bさんの腰を激痛が襲いました。
その原因は椎間板ヘルニアでしたが、実は原因はそれだけではなかったです。

血が足りないのは腰の骨の中!
Bさんのしびれの原因は、腰部脊柱管狭窄症という病気でした。
両足の神経は、背骨の中の管「脊柱管」を通って脳につながっています。
その管が狭くなり、神経を圧迫するのがこの病気です。
脊柱管が狭くなる理由は、椎間板の飛び出し、骨の変形、そして黄色靱帯(おうしょくじんたい)の肥厚など、複数あります。
Aさんの場合は、黄色靱帯が厚くなっていました。

腰部脊柱管狭窄症の症状
脊柱管の中で神経に栄養を送る血管がつぶされるため、神経が「しびれ」を出します。
足には全く異常はないのですが、足の神経から信号がくるため、脳は「足がしびれている」と勘違いしていたのです。
歩くとしびれるのは、動脈硬化と同様、歩くと足の神経に必要な血液が増えるためです。
この病気を放っておくと、排尿や排便にも障害が出たり、最悪の場合は下半身が動かせなくなることもあります。
※Bさんの場合は、もともと脊柱管狭窄症で圧迫を受けていた神経が、ヘルニアでさらに圧迫され、すさまじい激痛になったと考えられます。

腰の病気、その原因は?
腰部脊柱管狭窄症の原因ははっきりわかっていませんが、基本的に背骨の老化現象と考えられています。福島県で行われた調査では、50代で19%、80代では38%の人に腰部脊柱管狭窄症の症状がありました。
今後、高齢化でこの病気がますます増えることが予想されています。
しかし、この病気は3年、5年といった長い年月でゆっくりと進行する病気で、症状が軽ければ、すぐに寝たきりの心配があるわけではありません。
恐いのは、しびれが嫌で外に出かけなくなり「閉じこもり」になることです。
足がしびれる人ほど、意識して運動するようにしなければいけないのです。

「しびれスッキリ“良い姿勢”はなんと“前かがみ”」

脊柱管狭窄症に良い姿勢を教えている現場に行ってみると、患者さんは皆、腰が曲がっています。
実はこの病気に良い姿勢は「前かがみ」なのです。
前かがみになって腰を曲げると、背骨の中の管が広がるため、しびれが出なくなり、長く運動できるようになります。
いわば「神経に優しい姿勢」なのです。
姿勢に注意し、適度に運動して血行を良くすれば、3か月ほどで症状が全くなくなってしまう人もいるといいます。

※前かがみは、腰の筋肉には負担がかかります。
そこで、杖やカート、自転車などを使って体重を分散することが大切です。
なお、椎間板(ついかんばん)ヘルニアなど、前かがみになると症状が悪化してしまう病気もあるので、原因がはっきりしない場合は、あらかじめ医師に相談してください。

腰部脊柱管狭窄症の人に良い姿勢は、“前かがみ!”
姿勢に気をつけて「しびれ」が出ない生活を!
腰を曲げて歩くのはなんとなく恥ずかしいという人には、自転車がおすすめです。
自然に腰が曲がるので楽に運動できます。
また、自転車を押して歩くだけでも腰が曲がるので、効果があります。日常生活の中でも、腰を反らす姿勢をなるべく避けることが大切です。

閉塞性動脈硬化症(血管の病気)と腰部脊柱管狭窄症(腰の病気)の見分け方
血管の病気
立ったまま休んでしびれや痛みが治る
自転車でもしびれや痛みがでる
腰の病気
座って休むとしびれや痛みが治る
自転車ならしびれや痛みがでない

なお、「片足か、両足か」「しびれだけか、痛みか」などでは、見分けることは難しいといえます。
腰の病気でも、片足だけがしびれ、強い痛みを伴うことがあります。
一方、血管の病気で両足がしびれる場合もあります。
さらに、両方を併発している場合も増えているので注意が必要です。

「歩くと足がしびれる」症状は、「血管の病気」か「腰の病気」の疑いあり!



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小雨の中の横浜公園 2012.6.16 17:00撮影


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