高齢者のための転倒防止

「デュアルタスク」が鍵 高齢者のための転倒防止の新訓練法

転倒による骨折は、お年寄りが寝たきりや要介護になる大きなきっかけの一つ。
筋力の衰えなど体力の低下も原因ですが、比較的元気なのに転ぶ人もいる。
こうしたケースをふまえた新しい転倒予防法を、京都大のチームが唱えている。

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京大・老年学チームが注目するのは、高齢者の「デュアルタスク(二重課題)」への対応能力の低下、という。
なんだか耳慣れない。

どんな能力なのか尋ねたら、自分の体で試すことになった。

いすに座り、両足をカタカタとなるべく速く5秒間足踏みする。
「川の生き物を言いながら足踏みしてください」と指示された。

「えーっと、カワウソ、ヤマメ……」。
考えながらだと、足踏みがひどくゆっくりになる。
これが、二つの課題を同時にこなすデュアルタスクだ。
危険なので禁じられているが、携帯をかけながらの運転もそう。

「高齢者は、デュアルタスクを遂行する力が弱くなることで、より転倒しやすくなるのでは」。
この説は、スウェーデンの研究者らが97年、英医学誌に載せた報告が始まりだ。

歩いているときに話しかけられて、立ち止まってしまった高齢者は、歩きながら答えられた高齢者と比べ、その後6カ月間に転倒する確率が4倍以上高かった。
歩きながら別のことに注意を向ける余裕がないため、ちょっとした「不測の事態」でつまずいたり、すべったりして、転んでしまうのだという。

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この機能を鍛えようと、整形外科学と共同で訓練法を考えた。

長さ10メートルの間に、赤青黄3色のマークを3枚ずつ等間隔で1列に並べ、決められた色だけを踏んで歩く。
歩くことと、マークを見ながら判断することのデュアルタスクになる。

118人の高齢者を調べたところ、決まった色を踏み外す人は、そうでない人に比べ19倍も転倒する確率が高かった。
踏み外しの多い人の視線を調べると、足元に近い50センチほど前を見ていた。
間近しか目に入らないので次の動きがイメージできず、ミスにつながっているらしい。
一方、失敗の少ない人は、2メートルほど先の目標に視線を向けていた。

別のグループに約半年間、この訓練をしてもらった。
すると、その後の1年間で転倒した人の割合は訓練しなかった人の約3分の1にとどまった。
訓練後は視線もより前を見るように変化するという。

この訓練用のマットは市販もされたが、街中のタイル模様などでも同様の訓練ができる。
歩きながら考えごとをするのもいい訓練になるが、危険なので家の中などの安全な場所でやるとよい。
高速で足踏みしながら野菜や動物、国名などを言う方法でも、この能力は鍛えられるという。

◆インフォメーション
筑波大では「転ばない歩き方」(マガジンハウス)を紹介している。
太った人より、むしろやせている人の方が転びやすい。
骨折防止に骨を強くする食生活も大切。
ビタミンDを多く含むさけ、にしん、さんま、カルシウムの多い乳製品、豆類、ししゃもなどを積極的に取りたい。

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出典 朝日新聞 apital  2012.7.10
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