増える予防接種

増える予防接種 乳幼児の親、スケジュール作りに苦労

同時接種、分かれる見解
乳幼児向けの予防接種の種類が増える中、多くの保護者が悩むのがスケジュールづくりだ。
2歳までに接種が推奨されているワクチンは現在10種程度。
期間をおいて複数回、打つものもあり、ひとたび予定が狂えば、日程を組み直す必要がある。専門家らは「医療機関や民間団体の情報を活用するなどして効率よく接種し、幼い子供を感染症から守ってほしい」と呼びかけている。

東京都内の一角にある小児科医院。
平日午後3~4時の「予防接種受付時間」には、区内だけでなく、近隣自治体からも来院者があり、広い待合室は乳幼児を抱えた母親で混み合う。

相次ぐ承認
同医院は同時接種を推奨する医療機関のひとつ。
あるお母さんは「来院が月1回ですむので、とても助かっている」と話す。
この日は6カ月の次女に「ヒブ(インフルエンザ菌b型)」「小児用肺炎球菌」「3種混合」の3種類のワクチンを同時接種するため来院した。
「11歳になる長女の時はもっと少なかった。10種類をカバーしようとすると同時接種はやむを得ない」と話す。

予防接種のスケジュール管理が難しくなっているのは、厚生労働省が2007年以降、0歳時から接種できる「ヒブ」「小児用肺炎球菌」「ロタウイルス」などのワクチンを次々と承認したためだ。

これらは一定の間隔を空けて2~4回接種する必要がある。
同時接種しなければ、生後6カ月までに計15回の通院が必要となり、保護者の負担が大きい。

乳幼児の予防接種を巡っては、昨年春、複数のワクチンを同時接種した乳幼児の死亡例が相次いで明らかになり、厚労省が一部の予防接種を見合わせる事態に発展。結果的に「明確な因果関係は認められない」として、1カ月後に再開した経緯がある。

ある小児科医は「同時接種の安全性は諸外国の事例で明らか」と強調。
世界保健機関(WHO)が推奨する世界標準のワクチン接種方法を国内でも実践してほしい」と厚労省などの関係機関に訴える。

ただ、こうした混乱を受け、同時接種に懐疑的な小児科医や保護者もいる。

予防接種制度は種類ばかりでなく、公費助成の仕組みなども変化が激しい。
09年に民主党政権が誕生してから助成事業が次々と立ち上がったことで、1人目の子供と2人目とでは大きく変わっていることも珍しくない。
住居を構える自治体による独自の費用補助もある。
こうした中、最新の情報を求める保護者を支援する動きも広がっている。

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スマホに自動表示
特定非営利活動法人NPO法人)の「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子供を守ろうの会」(東京・中央)はインターネットを使ってスケジュールを作成できる仕組みを一般公開している。

昨年12月にはNTTドコモと共同で、日程管理ができるスマートフォン向けのアプリを開発し、無料で公開。
子供が生まれた日付を入力すれば、いつまでにどのワクチンを接種すべきかを自動的に表示してくれる仕組みだ。
アラーム機能なども備えており、「保護者の面倒な作業をなくしたかった」と同会ではいう。
サービス開始から半年間で約3万人がダウンロードして利用している。

20万部を発行する子育て情報月刊誌「ひよこクラブ」は年2~3回の頻度で予防接種特集を組み、「読者の一番の関心事」に応えている。
4月号では約50ページの小冊子付録を付けて、先輩の経験談や推奨スケジュールを提案。
「何度特集しても人気が衰えないコンテンツ」(同編集長)となっている。

国立感染症研究所感染症情報センターも「0~6歳」「小学生~高校生」「20歳未満」など、世代に応じた接種スケジュールをホームページで公開している。

スケジュールが逼迫して接種機会を逃すケースがある一方で、高額な費用負担によって接種を見送る保護者もいる。
原則として公費負担のない「任意接種」では、1回あたり2万円のワクチンもあり、情報不足を解消しても経済的な理由により、機会を逃している保護者も多いのが現状だ。

こうした状況を受け、厚労省は5月、ヒブと小児用肺炎球菌のワクチンを13年4月から原則無料にすることを決めた。
さらに、ロタウイルスB型肝炎についても、公費助成の検討を始めており、ワクチン格差の是正に向けた国の動きも本格化している。

参考・引用
日経新聞・夕刊 2011.3.11