急な視力低下

朝から何となく目がかすみ、新聞の文字が部分的にゆがんで見える――。
目を酷使したわけでもないのに、突然、視力が落ちることがある。
急に視力が低下するのは、網膜の中で、物を見るための細胞が集中している「黄斑」に水がたまってむくむ「浮腫」や出血が起きていることが多い。
これらの症状を招く病気の代表が「網膜静脈閉塞症(RVO)」だ。

急な視力低下 動脈硬化で網膜に出血・むくみ

老化や悪い生活習慣のために網膜内の動脈硬化が進むと、隣接する静脈が圧迫される。
すると血流が悪くなって静脈内に血栓ができ、血液がせき止められる。
これが静脈閉塞だ。
とくに、網膜を循環した血液が集まる「中心静脈」が詰まると、症状が急速に進む。

行き場を失った血液中の水分などが網膜に染み出ると浮腫になる。
半年ほどで自然に治ることも多いが、患者の3割は血がほとんど流れない「虚血」状態に移行する。
これが長く続くと酸欠・栄養不足になった網膜細胞が死に、最悪の場合は失明に至る。

RVOは50歳を超えた中高年に発症しやすく、「目の心筋梗塞」とも呼ばれる。

黄斑浮腫を解消するために、今はまず血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを邪魔する薬を眼球に注射するのが一般的だ。

VEGFは、血流が減って酸欠・栄養不足になった網膜に新しい血管を生み出すために分泌されるたんぱく質。血管から水分が漏れやすくする作用もあり、浮腫を進める「主役」と考えられている。
VEGFの作用で生まれた新しい血管は、壁が弱くて破れやすい。
抗VEGF薬は、その後の出血を予防する効果もある。

患者の15%は1回の注射で視力が戻る。
80%は効果はあるが、3カ月ほどで再び浮腫が起き、注射を継続する。
5%には効果がない。
炎症を抑えるステロイド薬を合わせて使うこともある。

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見え方が急に変わっても、ふだんから老眼鏡をかけていたり、白内障をもっていたりする人は、「きょうはちょっと調子が悪い」程度に考えがちだ。
そのため早期の治療が遅れてしまうこともしばしばある。
違和感があったら早く最寄りの眼科を受診する必要がある。

静脈閉塞の合併症である黄斑浮腫への対症療法は進歩した。
しかし、原因である血栓を溶かす根治療法は普及していない。

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出典 朝日新聞・夕刊 2014.4.14( 一部改変 )
版権 朝日新聞社


参考サイト
日本眼科学会・網膜静脈閉塞
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_heisoku.jsp

網膜静脈閉塞症ドットコム
http://www.rvo-eye.com/