男性不妊、精子探し出す手術

男性不妊精子探し出す手術 「無精子症」治療施設増え、自治体助成も

 不妊というと女性に原因があると思われがちだが、男性が関係する場合も半数近くに上る。男性不妊の原因の一つ「無精子症」に対しては精巣を切り開いて精子を採取する手術がある。手術のできる施設が近年増え、治療費を助成する自治体も出てきた。

 2011年に結婚した東京都内の男性(37)は3年たっても子どもができなかった。妻(31)が産婦人科を受診したが、異常はない。男性も調べてみると、精液中に精子がない「無精子症」とわかった。

 泌尿器科でホルモンや染色体を調べ、超音波検査を受けた。精巣から尿道へと通じる管に問題はないが、精巣で精子が十分につくられない「非閉塞(へいそく)性無精子症」と診断された。精巣を切り開いて顕微鏡を使って精子を探す「マイクロTESE(テセ)」という手術を受けることになった。

 4月上旬、紹介された東邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)で手術に臨んだ。陰嚢(いんのう)から精巣を引っ張り出し、精子が作られる精細管を顕微鏡で見ながら、精子がいそうな場所を探す。同じ手術室内にいる胚(はい)培養士が、精巣から取りだした組織を顕微鏡下で調べる。

 精子が見つからないこともあるとの説明を手術前に受けていた。「ありましたよ」。精子発見の知らせを手術台の上で聞いた男性は目から涙がこぼれた。「次のステップに進むことができると安堵(あんど)した」

 この病院では日帰り手術で、男性の場合は約1時間で終わった。精子はいったん凍結。年内にも、妻の卵子と顕微鏡下で受精させる顕微授精に臨む予定だ。

 世界保健機関(WHO)の調査では、不妊の原因に男性が関係する場合は48%だった。精液中の精子が少ない乏精子症や精子の運動率が低い精子無力症、勃起障害(ED)など色々ある。男性100人に1人と言われる無精子症のうち、男性のような「非閉塞性」は最も多いタイプだ。

 執刀した東邦大医学部の小林秀行准教授(泌尿器科)は「非閉塞性無精子症はかつては打つ手がなかったが、今は手術のできる施設が増えた」と話す。日本生殖医学会のまとめでは、マイクロTESEができる施設は12年2月に48カ所だったが、14年6月現在、57カ所に広がっている。

 ■採取できた人は3割

 マイクロTESEを受けても、精巣の中に精子が見つからなければ採取はできない。荻窪病院(東京都杉並区)のまとめでは、手術を受けた人のうち、精子が採取できたのは約3割。同病院の大橋正和・泌尿器科部長は「遺伝子の異常の有無を調べれば、手術前に精子の採取は難しいと分かる場合もある。体に無用な負担を加えないためにも、諦めなくてはいけないケースがある」と話す。

 採取した精子卵子と顕微授精して妊娠する可能性となるとさらに下がる。妊娠率を上げる試みもある。

 マイクロTESEを年間約300件実施しているリプロダクションクリニック大阪(大阪市)では、泌尿器科医と産婦人科医、胚培養士らが連携。精子卵子を採取するタイミングを合わせ、時間をおかず顕微授精する場合もある。石川智基CEOは「本当のゴールは精子を取ることではなく子どもの誕生にある」という。

 男性不妊の治療費を助成する自治体も増えてきた。マイクロTESEに公的医療保険の適用はなく自己負担で30万~50万円ほど。

 三重県は昨年度、全国に先駆けて男性不妊の助成制度を新設した。市町村と負担を折半し、世帯年収400万円未満の場合は最大5万円を助成する。東京都も今年4月から上限15万円を助成するなど計約20都府県が同様の制度を設けているほか、独自に助成制度を作っている市町村もある。