未破裂脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤、破裂と手術のリスク説明重視

脳内の血管の一部がこぶ状に膨れる「未破裂脳動脈瘤」は自覚症状はほとんどないが、破裂すると、くも膜下出血で死亡する危険性がある。
破裂しない患者も多く、患者数が多い病院では大きさや位置などで異なる破裂するリスクと、手術の危険性を十分に説明することを重視。
手術は開頭するクリッピング術のほか、血管内治療も増えてきた。


未破裂脳動脈瘤は脳動脈の分かれ目などにできた血管の「こぶ」。
破裂して一命を取り留めても後遺症のため社会復帰できるのは3分の1程度。
自覚症状がなく、他の疾患や脳ドックで検査を受けて、偶然に見つかる場合がほとんどだ。

ただこうした動脈瘤が必ず破裂するわけではない。
患者の年齢、こぶの大きさ、部位、形状などを考慮し、手術するか経過観察するか判断される。
経過観察の場合は半年から1年に1度、脳の画像診断で大きさや形の変化を確認するために外来通院となる。

「手術をしないで済むならそれが最も望ましい」が「手術を勧められなくても、破裂しないということではない」。
手術のリスクと破裂の可能性をてんびんにかけて、必要ならば手術が勧められるが、最終的には患者自身が決めるものでもある。

■手術法は2つ
手術法は2つある。
1つは頭部を切開してこぶの付け根をチタンなど体に影響を及ぼさない金属で作られた小さなクリップでふさぐクリッピング術。
もう1つとしては、太ももの付け根から血管に細い管(カテーテル)を挿入してこぶにコイルを詰める血管内治療。

日本脳神経外科学会によると、2010年度の国内での治療数は約1万6千例。
このうちクリッピング術は1万1千例で全体の7割を占める。
血管内治療も5年前より1割増えている。

「こぶ」の形状や位置によって100種類ほどのクリップから最適なタイプを選ぶ、という医師もいる。
手術は血管、神経が複雑に入り組む脳内を両眼の顕微鏡をのぞき込んで行う。
多くの経験を積み、周囲の血管などを傷つけずに最短距離でこぶに到達する技術が必要となる。

小さくても破裂するリスクが高いこぶもあり、破裂した位置などで症状が重くなることもあるため、大きさだけでなく位置も重要となる。

■医師の育成に注力
手術は症例数が一定程度多い施設で受けるべきだ。

手術の死亡率や半身まひなどの後遺症が起きるリスクのほか、手術でこぶに到達する前に破裂する可能性も伝えるという医療機関もある。

こぶが脳の深い位置にあるなどの場合はクリッピング術に比べて患者の身体的な負担が少ない血管内治療をする。

■直径7ミリで危険性高まる こぶの配置や形も影響
日本脳神経外科学会が未破裂脳動脈瘤が破裂する可能性について2001~04年に約5700人の患者を追跡調査した結果、直径7ミリ以上になると危険性が高まることが分かった。

約3年間で手術などしなかった患者の年間平均出血率は0.95%。
3~4ミリで0.36%、5~6ミリでも0.50%と横ばいだったが、7~9ミリでは1.69%と約3倍で、7ミリ以上で破裂するリスクが高まったという。
大きくなるほどリスクはさらに高まり、25ミリ以上では33.40%。
また動脈の分かれ目やいびつなこぶは破裂しやすい。

高齢者は動脈硬化が進んでいる場合も多く、体力面から手術のリスクが高いため、患者の年齢も大きなポイントだ。
脳卒中など起こした家族がいるかどうかも判断材料になる。

日本脳卒中学会の治療ガイドライン(09年)では、原則として患者の余命が10~15年以上の場合、こぶが直径5~7ミリ以上やいびつな形の場合は「治療を検討することを推奨」している。

こぶが大きくなれば物が二重に見える視覚障害などを起こすことがあるが、ほとんどは自覚症状がない。
検査機器の精度向上で、2ミリ程度の小さいこぶまで発見が可能となって来た。





<関連サイト>
動脈瘤、7ミリ以上でリスク増加
くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は、7ミリ以上の大きさになると、年間約60人に1人が破裂するなどリスクが高まるとの研究結果を、日本脳神経外科学会が米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに発表した。
 
脳ドックの普及に伴い、脳動脈瘤の発見は増えているが、手術すると後遺症の恐れもあり、治療すべきかどうかの判断が難しい。

・調査は2001年1月から04年4月までに、3ミリ以上の脳動脈瘤が見つかった男女5720人を最長8年間追跡した。
 
・全体の破裂の割合は年間0.95%(105人に1人)で、3~4ミリは0.36%、5~6ミリは0.50%だったのに対し、7~9ミリでは1.69%(59人に1人)と上昇、10~24ミリは4.37%、25ミリ以上では33.40%が破裂していた。
 
・また、太い動脈をつないでいる「前・後交通動脈」にできたこぶが破裂するリスクは、主要な血管の一つである中大脳動脈にできたこぶに比べ約2倍、いびつな形のこぶのリスクは通常に比べ1.63倍となり、形や位置でもリスクが高まることが分かったという。



<私的コメント>
ある医療施設での「脳ドック」の統計で、約1割に動脈瘤の存在が疑われたという報告があります。
少し古い資料ですが、日本脳ドック学会が1997年に発表した手術の指針(ガイドライン)があります。
それによれば、「動脈瘤が5ミリ前後より大きく年齢が70歳以下の場合は治療が勧められる」とされています。
また、これまでは動脈瘤は手術しないと破裂する確率は毎年1%前後と見られていました。
これも少し古いデータですが、1998年に米国の医学雑誌に「0.05%程度」とする論文が発表されました。
開頭手術の血管内手術も100%安全な手技ではなく合併症による後遺症が出る場合もあります。
したがって、大きさだけでなく動脈瘤の形や部位も含めて慎重に手術を検討したほうがいいということになります。
最近、医療機関別の手術件数が週刊誌や新聞に掲載されるようになりました。
うがった考えをすれば、手術適応の基準を甘くしている医療機関もあるかも知れません。
脳外科医も「破れない動脈瘤を無理に手術しているのではないか」という反省を常にすべきではないでしょうか。

いずれにしろ、日頃の血圧のコントロールや日常生活の管理が重要であることは言うまでもありません。



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長野・白樺湖湖畔 「黄金アカシアの丘」にて  2015.8.14 撮影