長引く体の不調、漢方薬で改善

体の不調、漢方薬で改善

体がどうも疲れやすい、冷え性が改善しない、
ぐっすり眠れない・・・。
医師にかかっても、なかなか治らない体の不調を改善するにはどうすればよいか。
漢方薬の処方で体質を改善し、病気に負けない体づくりを目指すのも選択肢のひとつだろう。

西洋医学感染症に対する抗生物質やけがを治す外科手術などで人類に大きな貢献をした。
東洋医学にも一部の感染症に対応しすぐ効く漢方薬があるが、多くは体質や生活習慣病などをじっくり治す。ストレスの多い現代社会には有効な処方だ。

伝統中国医学は約1500年前に日本に伝わり、漢方医学として発展した。
中国が主産地の阿膠(あきょう)や黄連(おうれん)、葛根(かっこん)など複数の生薬を組み合わせた「方剤」を使い、煎じた液や粉末剤を飲むことで様々な病気を治してきた。

■抵抗力など診断
漢方は病態の診断を「証」と呼ぶ基準でみる。
体力が病気より劣勢で体が冷えていれば『陰証』、体力が病気より優勢で体にのぼせや火照りがあれば『陽証』とする。
診断の物差しはさらに病気に対する抵抗力が弱い「虚証」と抵抗力が強い「実証」がある。
また、生命エネルギーを示す「気」、血液の「血」、血以外の体内水分の「水」をみて、これらのバランスが崩れたときに病気になるとみる。
 
ただ、十分な科学的な証明はなく、医学界の中でも「効果が分からない」という声がある。
一部の生薬はどうやって病気を治すか、そのメカニズムが明らかになってきたが、多くは未解明のままだ。
しかし効能は広く社会に認められ、現在薬事法で医薬品として認められ、健康保険が適用される漢方製剤は148種あり、医師の8割が処方しているとの報告もある。
 
漢方の特徴は病態をきめ細かくみて、その変化に合わせて方剤を処方する点だ。
たとえば風邪。個人差はあるが、おおむね悪寒や発熱のひきはじめで、うなじなどがこわばる場合は葛根湯(かっこんとう)、関節が痛い場合は麻黄湯(まおうとう)、鼻水やくしゃみが出る場合は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、のぼせる場合は桂枝湯(けいしとう)などの方剤を組み合わせて処方する。

風邪が長引いて舌に白いコケがある場合は柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、だるい場合は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)。
せきも細かく見て、のどに粘りのあるたんがからむときは半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、のどが乾燥し、たんが張り付くときは麦門冬湯(ばくもんどうとう)と方剤を変えていく。
 
冷え性も状態を細かく見る。
全身が冷え、だるいときは茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)、腰や太ももが冷えるときは苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)、膝から下が冷えるときは八味地黄丸(はちみじおうがん)と方剤を変える。

冷え性には全身型と上熱下寒型、末梢循環不全型の3種類があり、それぞれの病態に合わせた処方が必要となる。

「漢方ドック」も
こうしたきめ細かい処方を受けたいとき、漢方の基準で体の具合をみる「漢方ドック」を利用する方法もある。
漢方の専門医が脈や舌、腹を診察した上で体質を判定し、西洋医学の観点から血液、尿の検査なども実施して総合的なアドバイスができる体制を敷く医療機関も出来ている。

問診は「暑がりか」「寒がりか」「物事に驚きやすいか」など一般の人間ドックにはない質問を織り込み、陽証や陰証の体質判定に役立てる。
診断シートは主に「軽度の症状を認めるが特に心配はない」「症状を認め、経過観察が必要」「東洋医学的な治療が必要」などの段階で記入される。

漢方は2002年度から医学部のカリキュラムに導入が始まり、専門医が育ってきた。
脈を診るときは脈の強弱、速さだけでなく深さや緊張状態も見るなど「経験がモノをいう職人技の世界」だが、専門医が増えて受診できる機会が増えている。

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副作用に似た症状も
漢方薬は医師の処方箋が必要なものもあれば、薬局で手軽に買えるものもある。
処方箋が必要ないものは作用が穏やかなものが多いが、長く服用する場合は医師に相談するのがよい。

漢方は一つの方剤が複数の病態の改善に効く場合が多い一方、同じ方剤でも体質により、効く人と効かない人がいるので、医師による体質判定と病態の変化の把握が重要になる。

方剤の処方で改善に向かうときに「めんげん」と呼ぶ副作用に似た発熱や発疹などの症状がでることがある。その後は急速に回復に向かう場合が多いが、現段階では副作用との鑑別が難しい。

医師の指導を受けながら漢方薬と上手に付き合いたい。

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出典
日経新聞・朝刊 2015.11.2


私的コメント
当院でも一部の漢方を扱っています。
しかし、自分を戒めているのは「西洋医学の薬の方が効くのに漢方で遠回りをしない」ということです。
漢方を取り扱う医師の中に、漢方を主役にしたり「ちょっと漢方薬も足しておきます」といったことも多い。
昔のことですが、医師会の自己紹介で「趣味 漢方」と書いていた先生がいました。
先生の趣味を患者さんが押し付けられては、患者さんはたまったもんじゃありません。



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久しぶりに見た大きな虹  2015.11.15 京都・岩倉にて撮影