増える潰瘍性大腸炎

増える潰瘍性大腸炎 下痢や血便繰り返す難病

適切治療で普通の生活に
大腸の粘膜に炎症ができて腹痛や下痢、血便を繰り返す難病に潰瘍性大腸炎がある。
日本で患者数が急速に増えている。
詳細な原因は不明だが、食生活の欧米化やストレスなど様々な環境要因があると指摘されている。
完治は難しいものの、適切な治療を受ければ普通に生活できる場合が多い。
薬の選択肢が増えているのも朗報だ。

潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患の一種で、国が難病に指定している。
大腸の粘膜に炎症や潰瘍、ただれができる。
血便や下痢、腹痛などが主な症状で、生命に直接かかわらないものの、1日に何度もトイレに駆け込むなど生活の質(QOL)が下がる。
 
10~30代の発症が多いが、最近は65歳以上の発症も増えている。
特に30代までは進学や就職、出産など人生の節目となる時期が多い。
そこで潰瘍性大腸炎になると大きな支障を招きやすい。

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国内の患者数は推定約18万人で、米国に次いで多いとされる。
約10年前から2倍以上に増えた。
発症の原因は病原体などから身を守る免疫システムの異常が指摘されている。
大腸粘膜を何らかの原因で「敵」とみなし、攻撃することで炎症が起きる。
異常が起きる詳しい理由は分かっていないものの、食生活やストレス、遺伝的要因なども関係すると考えられている。
 
潰瘍性大腸炎と似ている病気には「クローン病」がある。
クローン病は病変が大腸に限らず小腸など消化管のどの部分にも起こる。
潰瘍性大腸炎は原則、大腸に限定される。
 
潰瘍性大腸炎の初期症状は下痢や血便、腹痛、発熱などだ。
異変を感じたら医療機関を訪れるべきだが、若い人は我慢してしまう例が多く、受診が遅れがちになる。
1週間以上、下痢や血便が続いた場合は医療機関を受診した方がよい。
 
潰瘍性大腸炎は通常、直腸に炎症ができ、その範囲が広がっていく。
主に、炎症が直腸にとどまる「直腸炎型」、半分近くまで広がった「左側大腸炎型」、大腸全体に及ぶ「全大腸炎型」に大別される。
 
重症度は1日の排便回数や体温などで区別している。
例えば、1日6回以上の排便や血便などがあれば重症と診断され、15回以上はさらに悪い「劇症」となる。
また、この病気は慢性疾患で、良くなったり悪くなったりという状態を繰り返す場合が多い。
 
さらに、壊疽性膿皮症や関節炎などの合併症に加えて、7年以上症状が続くと大腸がんになることもある。
診断には血液検査、エックス線検査、内視鏡検査などを組み合わせる。
患者は少なくとも年1回、内視鏡検査をしないとがんの発見が遅れる恐れがある。
 
治療は炎症を抑える薬物療法が基本。
最近は選択肢が増えてきた。
5―アミノサリチル酸製剤の服用が一般的で安倍首相が使用を明らかにした「アサコール」もその一種だ。
 
それでも症状が改善されないときは、副腎皮質ステロイド剤やイムランなどの免疫を調節する薬を使う。
効き目が強いとされる抗TNFα抗体は、中等症から重症の患者向けだ。
抗TNFα抗体などは生物学的製剤と呼ばれ、使える種類も増えている。
 
潰瘍性大腸炎の患者は約7割が軽症のため、多くは5―アミノサリチル酸製剤や免疫調節剤で改善する。
適切な治療を受ければ、多くの場合は普通に日常生活を送れる。

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ただ再発する例が多く、油断は禁物だ。
下痢などの症状が収まってもすぐに薬をやめてはいけない。
粘膜の炎症などが続いている場合があり、内視鏡で大腸の中を確認するまでは医師の指導に従って薬を飲み続けた方がよい。
 
安くて効き目の高い薬を日本から世界に発信しようと、臨床試験(治験)が国内で行われている。
新薬の候補は、リンパ球の表面にある特定のたんぱく質の働きを妨げる「AJM300」。

有効性や安全性を調べる第2相試験では、中等症の患者に服用してもらい、有効だと確認できたという。
来春までに治験を終え、約3年半後の実用化を見込む。
 
潰瘍性大腸炎は薬の選択肢が増えたうえ、メカニズムの解明も進みつつあり、多くの専門家が完治を目指し研究に取り組んでいる。
難病だからと患者は過度に心配しなくてよい。
きちんとした治療を受けることが大切だ。

<まとめ>
潰瘍性大腸炎の主な症状
・下痢、粘血便
・腹痛
・貧血
・体重減
・発熱

潰瘍性大腸炎の主なタイプ
・直腸炎
・左側大腸炎
・全大腸炎

出典
日本経済新聞・朝刊 2015.12.13(一部改変)