深酒に注意

酔って気分が悪くなると・・・

酒を飲み過ぎた、つまみの食べ合わせが良くなかった、体調が悪かったなど、誰しもが一度や二度は経験する「嘔吐」。
失態ではあるが、実は人間の生命を維持するための優れた生体反応でもある。

嘔吐は「命を守る」大切な反応
そもそも嘔吐はなぜ起こるのか。
解明されていないこともあるが、要因は6つ。
①腹部内臓刺激
②血液を介するもの
③平衡感覚に関わる耳の前庭刺激
④臭覚、味覚、視覚性入力によるもの
⑤精神性入力によるもの
⑥中枢神経の刺激によるもの
、だ。
このうち酒が原因となるのは②に該当する。
 
延髄にスイッチ
酒を大量に飲み、血中のアセトアルデヒドの濃度が限界を超えると、延髄の最後野という部分にある「化学感受引き金帯」という場所に信号が入る。
さらに喉の反射や味覚、腹部の胃や腸など臓器の感覚に関連する脳の孤束核を通じ、嘔吐中枢へ信号が送られることで嘔吐が起こると考えられている。
 
一瞬のようだが、体の中では実に複雑な反応が起きている。
気分が悪いと感じると同時に、唾液が多く出る。
続いて、小腸から胃への逆蠕動が起こり、いったん、小腸にある吐しゃ物を胃の中にためこむ。
そして吸息筋と呼息筋が同時に強く収縮する動きで強い腹圧がかかる。
 
さらに、食道の口側の部分にある上部食道括約筋と声門を締め、吐しゃ物が腸に戻らないように十二指腸につながる胃の下部を閉じる。
最後に上部食道括約筋を緩め、腹圧で胃の中の物を一気に口から吐き出させる。

我慢は禁物、唾液がサイン 
そもそも嘔吐は人間に備わる生理的な仕組みの中でも、命を守る最も重要なもの。
体に良くないものを食べたら吐き出すのは、命を守るために必要な防御反応だともいえる。
 
だから、せっかく飲んだ酒を「絶対に戻すまい」と耐えたり、「醜態をさらしたくない」と我慢したりするのは体にとっては良くない。
体が緊急事態に瀕しているというシグナル。
自然な生体反応に従って、吐けばいい。
 
ただ一方で「早く楽になりたいから」と指を口に入れて、無理に戻すのは極力避けるべき手段だ。
嘔吐は究極の生命維持装置でもあるため、実は体にとっては大きな負担になる。
 
例えば、吐しゃ物の中には胃酸や、脂肪を溶かして消化管粘膜を傷める胆汁も含まれる。
嘔吐後に、酸味を帯びた様な喉の奥のつかえを感じるのは、胃酸による損傷と考えられる。
嘔吐の前に唾液が大量に出るのは、食道を胃酸や胆汁から守るためだとも言われる。
 
だから、唾液を出して食道を守る準備が整わないうちに強制的に吐いてしまうと傷めてしまう原因になりかねない。
 
どうしても吐くなら指ではなく少し息をこらえ、強いニオイを嗅ぐとよい。
香水やキムチなどでよい。
なければ水を2~3杯飲み、胃にさらなる刺激を与えて嘔吐を促すのが無難。

入浴時は要注意
ただ、同じ嘔吐でも、酔った後の入浴中に起こす嘔吐はさらに負担が大きいので注意が必要だ。
泥酔して入浴すると、血流が急激に高まって突然嘔吐することがある。
 
アルコールで脳機能が麻痺し、前兆なく吐くのではないかと推察されている。
前兆のない嘔吐は、食道裂傷を起こしやすく、ひどい場合は出血する危険性がある。
 
ひどく酔ってもなお、「風呂で汗をかいて酒を抜こう」と思う人は少なくないだろうが、あまりにも危険だ。
翌朝まで入浴を我慢したい。
  
万が一、胃の中に吐くものがなく、嘔吐を何回も繰り返すが、胃液だけしか出てこないような場合は急性アルコール中毒の懸念もあるため、速やかに救急医療にかかることが勧められる。
嘔吐が治まる気配がなければ、とにかく素人判断は避けよう。
  
そもそも嘔吐を避ける事前対策を心掛けよう。
 
二日酔いなど悪酔いを防ぐ方法と同じ。
例えば、アルコール吸収速度を遅らせるため、飲む前にチーズなどタンパク質を少し入れておくなどだ。
 
飲み過ぎで病院のお世話になるのは避けたい。
 
酒の魔力に溺れない飲み方を模索しよう。


嘔吐の主な6つの要因
腹部の内臓刺激・・・ 毒物、食中毒、胃腸などの病気、強打など
血液を介するもの・・・薬物やニコチン、アルコール、つわりなど
耳の前庭感覚刺激・・・乗り物酔い、メニエール病など
ニオイや味、視覚によるもの・・・刺激臭、嫌な味、嫌悪感を持つ色彩や光など
中枢神経系の刺激・・・脳圧の上昇、脳出血、脳腫瘍、くも膜下出血など脳の病気

                                               
出典
日経新聞・朝刊 2015.12.12



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2015.12.9 撮影