糖尿病が脳の血管に悪さをするメカニズム

糖尿病が脳の血管に悪さをするしくみ

糖尿病の合併症として、網膜症や腎症があることはよく知られている。
これらは糖尿病によって血管が障害を受けて起こるものだ。
心臓や下半身の血管も、糖尿病によって悪影響を受ける。

心臓に酸素や栄養を届けている冠動脈が狭くなる狭心症への治療として、カテーテルなどを用いて血管を内側から広げる方法がある。
これも糖尿病があると、血管をいったん広げても、再び狭くなりやすくなる。
 
脳も例外ではない。
糖尿病だと、脳の血管が障害を受けやすくなる。
糖尿病を合併しているアルツハイマー病患者さんは、糖尿病のないアルツハイマー病患者さんと比べて、さまざまな種類の血管障害を起こすリスクが高まる。

 
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剖検脳を用いた研究から

糖尿病があると、ない人に比べて脳梗塞が2~4倍起こりやすくなることが知られている。
脳の血管で動脈硬化が起こり、その結果として血管の内側が細くなって、詰まりやすくなるのだ。
 
糖尿病はどんなメカニズムで脳の血管に動脈硬化を起こすのだろうか? 
それは、インスリン抵抗性と高血糖にわけて考えることができる。

 
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インスリン抵抗性と高血糖が脳の血管を障害させるしくみ。
NO(水色のつぶつぶ)の産生が減り、血管の壁(黄色と青で描いたかたまり)に接着因子(赤いT字状のもの)が現れて、単球がくっつきやすくなる

インスリン抵抗性とは、糖を処理するホルモンのインスリン膵臓から分泌されていても効きにくい状態だ。インスリン抵抗性の状態だと、血管を広げる作用のある一酸化窒素(NO:血管へのいい作用が知られています)が産生されにくくなる。
また、接着因子と呼ばれる物質が血管の内側にたくさん現れて、血液中の単球という細胞が血管の壁にくっつきやすくなる。
単球は血管の壁の奥側に入り込み、炎症を引き起こす。
これが動脈硬化につながるのだ。
 
また高血糖だと、たんぱく質に糖がべたべたくっついた「AGE」(最終糖化産物と呼ばれます)や、糖そのものが血管に悪さをすると考えられている。
AGEや糖もNOの産生を減らし、炎症を引き起こしたりして、動脈硬化を進展させていくのだ。
 
HbA1C」についてご存じの方は多いと思う。
糖尿病の指標として、最もよく使われているもので、赤血球の成分のヘモグロビン(Hb)に糖がべたべたくっついた程度を表している。
つまり、HbA1CはAGEの代表例なのだ。
HbA1Cの値が高い=糖尿病の程度が重い」とされるのは、それだけ血管がAGEによって悪い影響を受けやすいということを意味している。
 
糖尿病患者さんの半数は、同時に高血圧も起こしているとされる。
糖尿病に高血圧が合併すると、血管はより障害を受けやすくなる。
 
脳の血管は、心臓など全身の血管とは構造が違って、血管のいちばん外側にある膜が薄くなっている。
このため、圧力に弱く、高血圧によって血管が壊れやすいのだ。
糖尿病の方は、腎症や血管の動脈硬化によって高血圧にもなりやすいことが知られているので、塩分の多い食事やアルコールを控えるなど生活習慣に注意して、定期的に血圧をチェックするなどして頂きたい。

出典
朝日新聞 2016.4.28