肺がん治療「オプジーボ」

新薬、期待しすぎは禁物 肺がん治療「オプジーボ

国内のがんで年間死亡者が最も多い肺がんの新しいタイプの薬として、昨年12月に承認、公的医療保険が適用された「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)。
臨床試験(治験)では高い治療効果が示されたが、高価な医療費が課題になっている。

「転移消えた」「効かない人も」
オプジーボは2014年に皮膚がんの「悪性黒色腫(メラノーマ)」の新薬として、世界に先駆けて日本で承認。
昨年12月には肺がんで追加承認された。
国立がん研究センター中央病院では、昨年12月以降約80人の肺がん患者がオプジーボの治療を受けた。
2カ月ほど続けて、残念ながら効果がなく病気が悪くなる人が多い。
『効く人もいる』という表現が適切かもしれない。
副作用が出る頻度が治療の早い段階では少ないのも特徴だ。

免疫の働き促す/進行・再発対象
オプジーボはがん細胞を直接攻撃するのでなく、人に備わる免疫の働きを促す「がん免疫療法薬」だ。
 
がん細胞が「敵ではない」と欺くために免疫細胞に結合すると、免疫細胞は攻撃を止め、その間にがん細胞は増殖していく。
オプジーボはその結合を防ぎ、免疫細胞に「がん細胞は敵だ」と知らせる。
 
適用対象は切除不能で進行・再発した末期状態の非小細胞肺がん。
原則として、初めの抗がん剤で効かなかった次の段階で使われる。
非小細胞肺がんは肺がんの約8割を占め、気管支からの発生が多い扁平(へんぺい)上皮がん(約3割)と、末梢(まっしょう)部の発生が多い腺がん(約5割)に大きく分類される。
 
欧米などでの治験では驚く結果が出た。
化学療法が効かず再発した扁平上皮がんの患者272人にオプジーボと標準治療の抗がん剤ドセタキセル)で比較した。
1年後、ドセタキセルの生存率24%に対し、オプジーボは42%と高かった。
 
疲労や下痢などの副作用が出たのは131人中76人(ドセタキセル129人中111人)。
うち、重篤例は9人(同71人)で、脱毛症は0人(同29人)。腺がんでも生存率でドセタキセルを上回った。
オプジーボが有利なのが明確なため、いずれの治験も途中で異例の中止となった。
 
一方、課題もわかってきた。
がんが縮小した割合は約2割で、効かない人には「ただの水を点滴しているのと同じ」。
原因も不明だ。
 
リウマチなど自己免疫疾患の患者には使えず、高齢者ら元々の免疫力が弱い人には効果が期待できない。
日本肺癌(がん)学会は「すべての患者に有効な『夢の新薬』ではない」と過度な期待への警鐘を鳴らす。
 
製造販売元の小野薬品工業大阪市)によると、14年の承認以降、オプジーボを投与された推定患者数は今年4月末時点で5976人。
2865人に何らかの副作用があり、うち763人が重篤例だった。
肺がん治療で前例がほぼない1型糖尿病の重篤例もある。

問われる費用対効果
オプジーボは医療費の問題でも注目を集めている。
 
肺がん治療では2週間に1回点滴をし、投与量は体重に比例する。
例えば、体重70キロの男性だと1回約160万円。
保険適用(3割負担)で高額療養費制度を使えば、実質負担(所得で異なる)は減るが、70歳未満で年収370万~770万円だと最初の3カ月は月11万円かかる。4カ月目からはさらに下がる。
 
国の財政への影響を懸念する声もある。
肺がんの新規患者は年約11万人。4月の財務省審議会で、日本の医療費年約40兆円(うち薬剤費約10兆円)に対し、5万人が1年使えば1兆7500億円で「財政を逼迫(ひっぱく)させる」との意見も出た。
 
小野薬品工業は今年度、肺がんで使われる患者は1万5千人(平均使用期間は6カ月)で、売り上げは1220億円と想定する。
 
投薬をやめる場合も多く、現状では1年続ける人は約2割。
一方、どのくらい投薬を続ければよいかわかっておらず、「そこを見極める研究を進めてほしい」という声もある。
 
日本肺癌学会は、オプジーボを使う場合の詳細な治療指針を年内にまとめる。
医療経済の専門家も加え、費用対効果も含めた検討を進めていく。
 
オプジーボは胃や食道、肝臓などでも治験が進められ、腎臓は年内に承認される見込みだ。
ほかの製薬会社でも同様の仕組みの薬の申請や治験を進めている。

 
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出典
朝日新聞・朝刊 2016.5.26(一部改変)