特発性正常圧水頭症

= 「治せる認知症」見逃すな 特発性正常圧水頭症 = 
お年寄りに多い特発性正常圧水頭症という病気がある。
早期なら治療で改善が期待できる認知症の一つだが、患者数が従来よりかなり多いとする推計がこのほど発表された。
今では負担が少ない手術法が国内で定着しつつあり、見逃しを減らすとともに、治療態勢の充実が大きな課題だ。

負担少ない手術、普及
この病気は原因不明で、脳や脊髄を守る脳脊髄液(髄液)が脳室にたまる。
ゆっくり進み、歩行障害、認知障害、排尿障害が出る。
 
治療法の一つは、過剰な髄液をおなか(腹腔〉)へ流す手術「シャント術」。
日本で増えているのが腰椎(と腹腔を細い管でつなぐ「LPシャント術」だ。
従来は脳室と腹腔を結ぶ「VPシャント術」が多かったが、脳に管を刺すなど心理的負担が大きかった。
 
LPシャント術は、管が背中の腰の辺りから左脇腹を通り腹腔を結ぶ。
途中にバルブがあり、一定の圧力を超えたら髄液が流れる。圧力は手術前に身長や体重を元に設定するが、手術後の様子を見て、外から磁石を当てて調節もできる。
 
手術するかは、腰椎に管状の針を刺して髄液を約30ミリリットル抜く「タップテスト」などで判断する。

手術で症状が改善すれば、介護負担が減ることもある。

診断年1.3万人、氷山の一角?
LPシャント術の治療効果について、順天堂大や大阪大、東北大など20病院が参加した研究結果が昨春、海外の医学誌に掲載された。
60~84歳の患者を、診断後すぐに手術を受け運動療法を3カ月間続けた「早期群」(49人)と、運動療法を3カ月続けた後に手術を受けた「待機群」(44人)に分けて比べた。
 
その結果、診断から3カ月後、早期群の70%で日常生活自立度(ADL)が改善し(待機群は5%)、歩行障害が67%、認知障害が43%、排尿障害が57%でよくなった。
 
12カ月後までだと、早期群の67%でADLが改善(待機群は58%)、過去の国内のVPシャント術の効果(69%)と同等だった。
LPもVPも早く診断して手術した方がよい。
長期間たつと改善が十分ではなくなる可能性がある。
 
ただ、合併症のリスクはある。
12カ月後に、脳室の圧力が低くなり過ぎ生じた硬膜下出血が3例、チューブ逸脱が5例あった。
 
一方、特発性正常圧水頭症の患者(疑い例を含む)は高齢者の2・3%の76万人だとする推計が3月の日本正常圧水頭症学会で発表された。
東北大の研究グループが東北、山形、鳥取3大学の疫学研究を解析、従来(1・1%、31万人)の2倍以上だとした。
だが、実際に診断された患者は全国で年1万3千人で、シャント手術を受けたのは6700人にとどまると厚生労働省研究班は推定する。
 
家族ら周囲の人が気をつけたいこともある。
病院でほかの病気と誤診されたり、見落とされたりしている可能性がある。
認知症治療の中心となる認知症疾患医療センター(3月現在336カ所)の態勢強化や脳神経外科との連携にも課題がある。
 
周囲の人が気をつけたいポイント
・歩行障害・・・両足の間隔が広がり、歩幅が小さく、すり足になる。
特に方向転換のときにふらふらと不安定になる

認知障害・・・反応が遅くなる。注意を集中しにくくなり暗算などが苦手に。
趣味に関心を示さなくなる。物忘れは軽度
 
・排尿障害・・・頻尿になり、尿意を催すと我慢できなくなる。尿失禁も

 
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出典
朝日新聞・朝刊 2016.6.8