ダニ感染症

ダニ感染症、野山歩き注意

北海道で脳炎、初の死者 発熱・頭痛放置せず病院へ
ダニによる感染症が問題になっている。
8月、北海道でダニにかまれて「ダニ媒介脳炎」を発症した男性が死亡した。
この感染症が国内で確認されたのは23年ぶりで、死亡は初めてだという。
専門家は「今後も患者が出る可能性はある」と注意を促す。
国内では2013年からマダニがうつす重症熱性血小板減少症候群(SFTS)による死亡者が相次いでいる。
ジカ熱やデング熱など蚊の運ぶ感染症に注目が集まるが、外にいるダニにも警戒したい。

8月に死亡したのは40代の男性で、7月中旬に北海道内の草やぶでマダニにかまれたとみられる。
発熱や意識障害の症状が出て、札幌市内の病院に入院。
治療を受けていたが8月13日に死亡した。
ダニ媒介脳炎だった。
北海道では1993年に患者が出ており、国内2例目となった。
 
ダニ媒介脳炎はジカウイルスなどと同じ「フラビウイルス」と呼ぶ種類が病原体となる。
ウイルスはダニがかんだ患者にとどまり、人から人へは感染しない。
潜伏期間は7~14日で、発熱や筋肉痛、頭痛などの症状が出る。
 
重症化すると昏睡やマヒなどの脳炎症状が出て、死亡する場合もある。
回復しても後遺症が出やすい。
致死率は1~3割程度とされる。

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診断は、ウイルスの遺伝子や感染で体内にできる特有のたんぱく質を調べる。
 
ウイルスは通常、ダニと野ネズミなど野生動物の間を行き来している。
ダニはシカやイノシシにくっついて移動している。
道内の野ネズミ、馬、犬を対象にダニ媒介脳炎ウイルスの抗体を調べたところ、道央から道南にかけて反応が出た。
専門家は「見過ごしている感染者がいる可能性がある」と指摘する。
 
ダニは春から秋に盛んに動き回る。
人をかむとはいうが、実際は口を突き刺して血を吸う。
刺したときに痛みを和らげる物質を出すため、かまれた人のほとんどは気づかないという。
 
牧草地や森林のほか、民家の裏庭や畑、あぜ道などにも生息する。
体長は3~8ミリ程度で、血を吸うと1~2センチメートル程度に膨らむ。
「新しいおできができた」と家族に指摘されて気付いた人もいるという。
 
家のカーペットやベッドにいるダニとは種類が異なる。
家にいるダニは体長0.3~0.4ミリ程度。
ダニの死体やふんがアレルギーの原因になるが、人をかんで深刻な病気をうつす例は知られていない。
 
ダニ媒介脳炎は欧州やロシアで流行しており、毎年1万人前後が発症している。
流行国では、林業に携わるなど感染リスクの高い人を対象にワクチンが接種されているが、日本では承認されていない。
有効な治療法もない。
 
身を守るにはマダニにかまれないようにすることが大切だ。
ダニはいったん体についた後、柔らかい場所に移動して血を吸う。
首や耳が多く、胸や腹、上腕、頭、顔もかまれる。
 
仕事やハイキングで山林に入る際は長袖や長ズボンを着用し、肌の露出を少なくするよう心がける。
首にはタオルを巻くかハイネックのシャツを着る。
シャツの裾はズボンの中にいれ、ズボンの裾は長靴の中にいれるか、靴下をかぶせる。
 
服に塗布して使う忌避剤も市販されている。
国立感染症研究所によると、DEET(ディート)やイカリジンという成分がダニを遠ざけることが確認された。
ただ、過信しないほうがよいという。

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ダニが服に付き、気付かず家に持ち込んでしまう場合もある。
上着や作業着は家に持ち込まないようにするか、ダニが付いていないかどうかを確かめる。
ダニが見つかったら、粘着テープで取る。ダニを落とすために入浴したりシャワーを浴びたりするのもいい。
 
ダニは蚊と異なり、体に数日から数週間とどまって血を吸い続ける。
吸血し始めたときは簡単にとれるが、ダニが頭を固定してしまってから無理にとると、頭の部分だけがちぎれて残ってしまう。
化膿(かのう)などの原因になるので、医療機関を受診した方がよい。
 
ダニの感染症は、日本ではなじみが薄い。
発熱などの症状を放置すれば、手遅れになってしまう。
すぐに近くの医療機関を受診しよう。
ダニがいそうな草やぶを歩いた後に症状が出たら、ダニ媒介脳炎の可能性を医師に相談してもよい。
医師の経験にも差があり、ほかの病気と見間違ってしまう例もある。
医療機関側の備えも重要になる。

 
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参考
日経新聞・朝刊 2016.9.4