男性不妊

男性不妊 原因分かれば根本治療も

不妊治療が広まるとともに、「男性不妊」という言葉も広く知られるようになってきた。
不妊のケースの半数近くに男性が関係しているとみられるが、治療で妊娠できることもある。
    
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男性不妊というと、「精子がない」というイメージが強いかもしれない。
射精した精液の中に精子がまったくない状態を「無精子症」と呼ぶ。
 
無精子症には、精巣で精子はできるが精子の通り道に問題がある場合と、通り道に問題はないが精子をつくる機能に異常がある場合がある。
前者の治療は通り道をつなげる手術が代表的だ。
 
後者は「非閉塞性無精子症」と呼ばれ、かつては治療法がほとんどなかった。
最近は顕微鏡下で精巣から精子を探す手術が広がっている。
ただ、この方法でも全く見つからない人がいるのも事実だ。
手術で精子が見つかれば、卵子体外受精するステップに進むことになる。
 
このように、男性の不妊治療は原因によって治療法が大きく異なる。
厚生労働省の研究班が2015年度にまとめた調査研究では、国内の39施設の患者約7300人のうち、精子をつくる機能の異常がある「造精機能障害」は82%で最も多く、セックスがうまくできない「性機能障害」は14%、精子の通り道に問題がある「精路通過障害」は4%だった。
 
「造精機能障害」の約半数はその原因が不明だが、4割弱は精巣につながる静脈が逆流してこぶができた「精索静脈瘤(りゅう)」だ。
血流が悪く、精巣の温度が高めで精子をつくる機能が低下しており、逆流を防ぐ手術が有効だ。
 
性機能障害は、勃起障害(ED)と射精障害に分かれる。
EDには治療薬がある。
射精障害には、膣内では射精できない場合も含まれる。
自慰行為の習慣が悪かったり、排卵日に性交渉を勧められることによる心理的な負担があったりするのが原因と考えられている。

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不妊治療をしているカップルのうち、女性だけがクリニックに通っている例は少なくない。
その場合、パートナーの精子を朝に採取して持参し、調べていることが多い。
専門医は「不妊治療をするなら、男性も少なくとも一度はきちんと受診してほしい」と呼びかける。
 
精子だけでなく男性の体を調べればより詳しく原因が分かる。
そうすれば、すぐに体外受精という選択をせずに、男性の根本的な治療ができる可能性がある。
 
男性側の主な検査は、問診と視診・触診、ホルモンや染色体の検査、そして精液検査だ。
触診では精巣の大きさや、精索静脈瘤の有無などを確認する。
精液検査では、精子の量や濃度、運動率、形が正常かなどを確かめる。
 
男性不妊の専門外来や、産婦人科泌尿器科の医師がともに不妊治療の診察にあたる「リプロダクションセンター」が各地で増えている。
日本には不妊治療をしている医療機関が約600あり、主に産婦人科医が担当しているが、そこに泌尿器科医が加わるケースもある。
 
公的な医療保険が適用されていない男性不妊の手術に国や自治体の助成金が出る場合もある。
一方、男性不妊の専門医(日本生殖医学会の専門医のうち泌尿器科の医師)は現在、全国に約50人しかいない。
都市部に多く、四国や九州など全くいない地域もある。
日本泌尿器科学会理事長は「まず男性の基礎疾患があるかどうか調べる必要がある。近くに専門医がいない場合は泌尿器科に相談してみてほしい」と話している。

<番外>
精液をスマートフォンのカメラで撮影し、精子を観察できるキットが国内で販売されている。
ハーバード大関連病院のチームが昨月、同様のキットの有効性を論文発表した。
これで受診が不要になるものではないが、男性不妊に関心を持つきっかけになりそうだ。
 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.4.22