漢方薬、がん治療に活用

漢方薬、がん治療に活用  高齢者医療でも効果期待 漢方薬和らげ減薬に

伝承されてきた「漢方薬」を西洋医学にうまく取り入れる動きが広がってきた。
抗がん剤の副作用や高齢者医療などに効果的に使おうと、国の実行計画や研究会の提言が後押しする。
さらに、高齢化が進む日本で過剰な服薬や医療費を抑えようと、漢方の新たな活用法も模索が始まっている。

Aさん(70代男性)は、消化管の壁にがんが出来て手術で摘出した。
その後、腹部に転移し、抗がん剤治療を受けることになった。
だが、体のだるさや下半身の冷えがつらく、「薬を飲み続けられない」と患者は頭を抱えた。
主治医の紹介で、がん研有明病院(東京)の漢方サポート科に行くことになった。

効果をデータ解析
同病院の部長は、患者に下半身の冷えに効果がある「牛車腎気丸」など4種類の漢方薬を処方した。
副作用は徐々に和らぎ、抗がん剤治療を続けられるようになった。
 
同病院は2006年4月にがんに特化した漢方専門外来をスタート。
咽頭がんなどで放射線治療を受け、唾液が出にくくなった患者には「麦門冬湯」を処方し、低下した生活の質を改善している。
 
医療用の漢方薬は148処方が薬価収載されている。
どの漢方薬を使うかは、副作用の症状や検査結果から決めるが、星野部長もどうしてその漢方が効果があるのか、分からない点があるという。
このため、これまでに漢方薬を処方した約2900人分のデータ解析を行い、「漢方薬を処方する際の根拠を明確にしていきたい」と意気込む。
 
中国から日本に伝わり、独自の発展を遂げてきた漢方医学
より科学的に有効活用しようという機運が高まってきた。
厚生労働省が15年12月に公表した「がん対策加速化プラン」では、がん患者の副作用や後遺症の軽減を目的に、研究推進が明記された。
 
16年8月には医学研究者らが「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」を発足した。
研究会の会長には、日本医学会会長が就き、今年3月に提言書を公表した。
がん患者とその家族に、漢方薬に関する科学的成果を伝えていくことが明記された。
 
提言書では、高齢者医療でも漢方が役立つことを強調。
中でも、加齢とともに運動機能や認知機能が低下する「フレイル」の予防に有効活用する方針を打ち出した。
 
「筋肉痛がつらい。どうにかなりませんか」。
大阪大病院・漢方内科診療科長のもとへ、70代前半の女性が訪れた。
 
女性の握力や体力は著しく低下していた。
休まず歩けるのは数百メートルで、片足で立つこともできない。
そこで、体力や気力を高める効果もある牛車腎気丸を処方したところ、握力は10キロ以上、歩ける距離は2~3キロに回復した。
 
漢方の本質は生体の持つ回復力を引き出すことである。
患者の状態をよく見極めて処方すれば一つの漢方薬で複数の症状を改善することもあり、ポリファーマシー(多剤併用)からの脱却につながる。
 
ただ、そのためには正しい知識に基づいた処方が不可欠だ。
日本老年医学会は15年、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」をまとめ、科学的根拠に基づいた高齢者の漢方治療を初めて盛り込んだ。
高齢者への処方が増えるなか、専門医以外も安全な治療を行うよう促している。

コスト抑制も検証
一方、高齢化に伴って増え続ける医療費の抑制に漢方を役立てられないか。
こうした視点に立った新たな研究も始まっている。
 
大腸がんの手術を受けた患者が腸管の働きを活発化する「大建中湯」を服用すると入院日数が短くなる。
1人当たりの入院費は269万円から231万円に下がるという計算がある。

医療費の観点からも、漢方が有効かどうか明らかにしていく必要がある。

 
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参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.4.24