「認知症が死因」認識弱く

認知症が死因」認識弱く 予防や治療の壁に

アルツハイマー認知症が原因で死亡したのに死因として算定されにくい実態が明らかになってきた。
2025年に患者数は700万人超と試算され、死を招く病であるはずだが、肺炎などアルツハイマーが引き起こした別の疾患による死亡と医師が認定するケースが多かった。
統計データや文献の不足につながり、治療薬がほとんどないことと並んで予防や治療を阻む壁となっている。
 
国内の認知症患者数は直近の12年調査で462万人にのぼるが、死因としては16年時点でも1万2千人弱しか記録されていない。
死因別の順位でも女性の10番目に登場するだけだ。
一方、米国では14年に死因の6番目(9万3千人)となった。
今年5月には米疾病対策センターCDC)が14年の認知症による死者が99年比で55%増えたとして、「fatal(命に関わる)」な疾患との言葉で警告した。
 
米国の認知症の患者数は10年調査で500万人と日本と大きく変わらず、死亡総数で8倍の差が生まれる要素はない。
統計上の日米の差は死亡診断書に医師が記載する死因の取り扱い方の違いから生まれるようだ。
 
「直接的な死因を記載する傾向がある」(医療関係者)という日本で、特に関連が指摘されるのが肺炎だ。

うまく飲み込めなかった食事や唾液が細菌を伴って肺に入ることで発症する誤えん性肺炎に認知症患者が多く含まれるとみられている。
つまり、肺炎死には認知症による寝たきり患者が相当数含まれる可能性がある。
 
アルツハイマー認知症に対する日米の捉え方の違いも影響するようだ。
欧米では診断時に余命宣告がなされるなど、以前から致死性の病と認識されている。
欧米は生存期間の研究も盛んで中央値は発症から7~10年とされている。
 
日本では医師も含め「重症化すると歩行や飲み込む動作が困難になるなどの疾患の重さが十分に理解されていない。
偏見も根強く、直接の死因として扱わない傾向がある。
10年から3年間、大阪府内の病院で実施した調査では高度認知症の患者31人のうち21人で、病状の進行に伴う摂食や飲み込みの障害が死亡につながっていたと報告されている。
かねて認知症が死を招くとの現場からの報告はあったのに死亡診断書には反映されてこなかった。
 
アルツハイマー認知症は発症の原因がはっきりせず、病根に直接働く治療薬がない。
それでも上位の死因として正しく認識されれば疾患への理解も深まり、多くの人が適度な運動など生活習慣の見直しによる予防に向かう。
発症が確認された後の生活計画づくり、後見人の選定といった作業も、より重視されるようになる。
 
がん対策基本法成立でがん検診が浸透したように、認知症基本法が必要と訴える専門家もいる。
ケア体制の整備や治療法確立に向けた検証データの集積のためにも実態通りに死因として認定され疾患への啓発を進める必要がある。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.10.14