ICU退室後に様々な不調

ICU退室後に様々な不調 体力低下や記憶障害など

重い病気のため集中治療室(ICU)に入った患者の多くが、退室後も体や精神の不調が続くことが分かってきた。
集中治療後症候群(PICS)と言われる「病み上がり」の症状だ。
軽減や予防には早めのリハビリや、患者の家族へのサポートが大切という。

東京都内の女性(75)は昨年末、敗血症になり某大学病院に運ばれた。
血圧を上げる薬や呼吸補助装置などをつけてICUで全身管理を受け、約3週間後に退院した。
 
「入院前と同じ」つもりだった。
だが、駅まで徒歩10分の道のりが20分かかり、階段も一苦労。
ごはんがうまくのみ込めないことも時々あった。
 
ほかにも家族に突然買い物を指示したり、心配事を思い出して慌てたり。
入院していた病院に相談して、改善したが、後で家族から「とても付き合いきれなかった」と言われた。
「そんな状態だったなんて自分では全然分からなかった」と女性は言う。
 
敗血症や肺炎、手術後の重い合併症などでICUに入り、退室後に様々な不調が発生するのがPICSだ。体力や筋力の低下、記憶障害、不安や心理的外傷(PTSD)が起き、認知機能や精神面にも影響を及ぼす。
「以前と違う」患者の姿に直面する家族も不安を抱えることが少なくない。
 
この概念は2010年ごろから提唱され、少しずつ研究が進む。
この大学病院で当時、女性を診た主治医は「PICSは『病み上がり症候群』と考えると、わかりやすい」と説明する。
 
海外の研究から、敗血症生存者の3分の1に身体や精神的な障害が残る――といったPICSの深刻な実情が明らかになってきた。
ICUを出た人には誰にでも起きうる。
快適な生活や社会復帰にとって大きなハードルだ。
「多くの人は、退院がゴールだと思っているがICUに入るような患者、特に高齢者では、2年、3年と続く『病み上がり症候群』との闘いのスタートだと知ってほしい」。
この医師はそう話す。

早めのサポートで改善も
ICU退室後の生活の質の低下を抑える動きが出てきた。
注目されているのが、早期の運動やリハビリと家族へのサポートだ。
 
早期リハビリには、看護師や理学療法士らとの連携が不可欠だ。
PICSでは精神的な影響も出るので、精神科医らも交えたチーム医療が理想的だ。
 
退院後の患者の生活を支える家族への対策も重要になる。
患者の状況を受け止めきれず、家族までも不安やうつになる恐れがあるからだ。
入院中から家族らとのコミュニケーションを増やすと有効という結果が出始めている。
 
患者には、入院したときの状況を教えると記憶がないことへの不安が和らぐ。
面会を増やしたり、愛着のある音楽や写真を届けたりしてもらうことも良い。
家族には日記などの記録をつけ、不明な点があれば医師らとやりとりする。
患者のリハビリに同席してもらうのもよいそうだ。
 
重症患者の場合、説明を受けて「怖い」といった不安と感じる家族がほとんどだ。
入院中から家族に患者をサポートしてもらえれば、家に戻った後の心構えができ、患者だけでなく家族の不安軽減も期待できる。
 
日本集中治療医学会は昨年、ICUでの治療後の早期リハビリに関してのガイドラインを作成。
ベッドで頭を持ち上げる、ベッドサイドに立つなどのリハビリを早期に始めると、日常の基本動作などを改善することが確認されつつあることや、退院を早めたり生活の質を改善したりする可能性があるとしている。
 
「『こんなに早くリハビリが必要なのか』と不安に思う患者や家族の理解を助けることにもつながれば」と関係者は話す。


集中治療後症候群(PICS)のイメージ
重い病気などで集中治療室(ICU)に入る

治療に伴うダメージ、入院のストレス

PICS 主な症状
①身体症状
 疲れやすい 筋力の衰え ものをのみ込みにくい
認知障害
 記憶があいまい 不注意な行動や言動
③精神への影響→家族にも
 不安 PTSD  抑うつ

改善策の例
・早期の運動やリハビリ
・家族へのサポート

参考・引用
朝日新聞・朝刊 2018.7.11