広がるMRI装置の活用

病気の診断から夢の解読まで・・・広がるMRI装置の活用

がんや脳梗塞など、病気の診断に広く使われているMRI(磁気共鳴断層撮影)。
最近は、こころの病気の解明や脳科学などにも貢献している。

ベッドの上で横になり、ドーナツ状の装置の中へ入って、体の断層画像を撮影するMRI装置。
この装置の中には、巨大な円筒形の超電導磁石が入っている。
 
人間の体重の約6割は水でできている。
体内の水素の原子核は、通常はバラバラの方向を向いていますが、MRIで外から強力な磁場を与えると、コマのように回転している原子核は一定の方向を向く。
さらに電磁波を当てると、原子核はタイミングをそろえて特定の方向を向く「磁気共鳴」を起こす。
この現象を利用して信号をとらえ、画像化しているのがMRIだ。
 
同じく画像診断に用いられるX線CT(コンピューター断層撮影)は、X線が体を透過して画像を撮影するため、放射線被曝を伴う。
一方、MRIは被曝がないことに加え、自由に体の断面が撮影できる、画像のコントラストがはっきりしていてわかりやすいなどの利点がある。
水を含んで軟らかい脳や脊髄などの画像化にも適している。
ただ、MRIは撮影に時間がかかり、その間はじっとしていないといけないため、呼吸で動きやすい肺や心臓の撮影はCTに比べると苦手だ。
 
また、撮影時の大きな音も課題だった。
MRI装置は、撮影に必要な傾斜磁場コイルに電流を流す際にコイルが振動する。
そのため、鉄道の高架下のような大きな音が出るので、通常は耳栓をして検査を受ける。
しかし、静音化した最新型も登場している。
人間の聞こえ方の特性を考慮し、うるさいと感じる周波数帯を減らすよう、電流の流し方を変えたことで実現できた。
 
さらにMRI装置は、考えたり感じたりするときに脳のどの部位が活動しているのかを調べることなどにも利用されている。
 
この「fMRI(機能的磁気共鳴断層撮影)」という技術は、日本の物理学者の小川誠二さん(84)が、米ベル研究所に所属していた1990年に発見した原理(BOLD効果)が使われている。
血液中の酸素を運ぶヘモグロビンは、酸素を手放すと磁気を帯びやすくなる。
その場合、磁場が乱されてMRIの信号が弱くなる。
神経細胞が活動すると血流が増えて酸素をもつヘモグロビンが増える一方、酸素を手放したヘモグロビンが減るため、信号が強くなる。
 
「外界が色あせて見える」と感じる、うつ病統合失調症などの患者にも見られる症状が起こる時の脳の状態を、この技術で調べた研究がある。
MRI装置に入った被験者14人に、鮮やかさの異なる花の画像を見せて、見え方に応じて点数をつけてもらった。
脳の断面画像を2秒間に35枚撮影し、立体の脳を再現。
PET(陽電子放射断層撮影)検査も組み合わせて解析した。
その結果、脳の線条体という領域にある、神経伝達物質ドーパミンの受容体密度が高い人ほど、色あせたと感じている時の前頭葉頭頂葉の神経活動が高いことがわかった。
研究チームは「新たな診断や治療につながることが期待できる」と話す。
 
ほかにも、fMRIで夢を解読する研究や、脳活動のパターンを制御して恐怖の記憶を和らげる研究などもある。
まだ、短い時間に連続して神経活動が生じた場合に、正確に区別して計測できないなど技術的な課題はあるが、脳の仕組みの解明に向けて今後も活躍の場が広がりそうだ。

ドーナツ型のMRIは圧迫感があり、閉所恐怖症の人が利用できないケースもあったが、近年は永久磁石を使ったオープン型も増えている。
日本の人口100万人あたりのMRI台数は、先進国の中でも断トツの1位。
この装置を使ってどんな研究成果が生み出されるか注目される。

参考・引用
朝日新聞・朝刊 2018.7.14