画像診断装置の進化

画像診断装置、異なる原理 高画質に進化、撮影時間も短く

会計不祥事に伴う業績悪化で、東芝が売却対象とした医療機器子会社、東芝メディカルシステムズ
キヤノンが6655億円で買収する契約を結んだ。
東芝メディカルの主力事業が体の内部を診る画像診断装置で、コンピューター断層撮影装置(CT)と磁気共鳴画像装置(MRI)が代表格だ。
1970年代に開発された両装置は撮影時間の短縮や高画質化が進み、病気の早期発見につながっている。 

X線と磁気の違い
人間ドックなどで見かけるCTとMRIは外観がよく似ている。
「ガントリー」と呼ぶ大きな筒のような機械の中に、寝台に横たわった被検者が入っていき、撮影するところも一緒。
だが、撮影方法は全く異なる。
CTはX線の吸収、MRIは磁気の共鳴という原理を使う。
 
CTはガントリーにX線を出す管球と、それを受け取る検出器が入っている。
体の周りを両者が360度回転し、X線が被検者の身体を透過する。
その際のX線の強弱を検出し、コンピューターで演算処理して画像を再構成したうえで、断層画像にする。
 
X線を使うという点ではレントゲン撮影と変わらない。
ただ、レントゲンは一方向からの透過画像なので、重なりあった臓器の細かい病変などは診断しにくい。
CTは360度すべての方向から放射されるため、身体のあらゆる部位の輪切り画像を作り出せる。
どこに病変があるのかを見つけやすく、現在の画像診断の代表選手といえる。
 
歴史をひもとけば、72年に英EMI社が世界で初めて商用機を開発した。
発明を主導したハウンズフィールド、コーマックの両氏は79年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
国内第1号は75年で、東芝メディカルがEMI社製の装置を東京女子医科大学に納入した。
現在は東芝メディカルのほか、米ゼネラル・エレクトリック(GE)などが主力メーカーだ。
 
診断の肝となる画質を左右する重要な要素が検出器の数。
当初は円状に1列あっただけだったが、2000年代に入ると列をどんどん増やし、幅広い範囲を一度で撮影できるようになっていった。
 
07年には東芝メディカルが320列を搭載したCT「アクイリオン・ワン」を発売した。
これだけあると、一度に撮影できる幅が16センチメートルになり、脳や心臓などの臓器全体でも1回転で済む。
アクイリオン・ワンシリーズは世界で約1100台、日本で約350台を出荷しており、東芝メディカルがCTの世界シェア2位グループに食い込む原動力の一つになっている。

妊婦や小児は注意
CTで問題になるのはX線を使うことで起こってしまう被曝だ。
撮影回数には制限があり、妊婦や小児などには注意が必要となる。
 
被曝量を抑えるため線量を下げることもできるが、画像にノイズが入る。
そこで、再構成する画像に何度も補正をかけて処理し、少ない線量で見やすい画像にする手法が広がっている。
被曝低減のためにメーカーは撮影時間を短縮しようともしている。
東芝メディカルは12年に1回転0.275秒という高速スキャンができる機種を発売した。
 
MRIのガントリーにはX線装置ではなく、コイルや磁石が入っている。
被検者に高周波の磁場を与え、体内にある水素原子が共鳴現象を起こして反応する信号をキャッチ。
画像にする仕組みだ。
 
水素原子の動きを捉えるゆえ、脳や血管といった水分量が多い部位を診るのが得意。
ただ、複数の信号をキャッチしてはじめて画像となるため、撮影時間がCTよりかかる。
じっとしていられない子供や救急の患者の診断などには向かないとされる。
磁場が加わるので、体の中にペースメーカーが入っていたり、入れ墨などがあったりすると撮影できないことが多い。
 
MRIの画質は磁場強度が大きく左右する。
80年代初めの装置では0.15テスラだったが、現在では1.5テスラか3テスラが主流となってきた。
 
MRIは、検査中に「カーン」という工事現場のような音がする。
これは磁場を発生させるためにコイルに電流を流すと、力が機器に加わるために起こる。
学生時代に学んだ「フレミング左手の法則」に基づく物理現象といえる。
 
検査時間が長く、音を嫌がる人も多い。
今は騒音の発生源であるコイルを真空容器に封じ込めて音の伝わりを減らす手法などが登場した。
閉所恐怖症の人だと長時間、装置の筒の中に入る検査は苦痛なため、日立製作所は永久磁石を使った開放的な空間を作った装置を売り出している。
 
CT、MRIいずれも日本は世界でも突出して普及している。
がんの検査に使う陽電子放射断層撮影装置(PET)と組み合わせた複合タイプの装置も少しずつ広がってきた。
がん生存率の高さにつながっている一方で、医療費高騰の原因とみる声があるのも事実だ。

<PET>
主にがん検査に使われる装置で、がん細胞が正常細胞に比べて何倍もブドウ糖を取り込む性質を利用する。
ブドウ糖に近い成分であるポジトロン核種を合成した薬剤を注射し、これをがんにブドウ糖と「誤認」させる。
ポジトロン核種を合成した薬剤はガンマ線を放出する。
これを検出して、がんの居場所を突きとめる。
国内では1994年に検診が始まった。
 
PETだけでは、がんのある臓器をはっきりと示すのが難しい。
このため、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)の画像と重ねて合わせるPET・CT、PET・MRIなどの新たな装置が登場している。

 
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出典
日経新聞・朝刊 2016.4.15


<関連サイト>
MRI
https://ja.wikipedia.org/wiki/核磁気共鳴画像法
•マスカラ、アイライン、アイブロウ、アイシャドー等の化粧品の中には磁性体を含む成分を含有しているものがあり、検査によって熱傷をおこすことがあるので、検査前に落とす必要がある。

•カラーコンタクトレンズや入れ墨、一部の貼付薬も、上記の化粧と同様に磁性体を含んでいた場合、熱を持ち熱傷を引き起こすことがある。

•酸素ボンベや車椅子、ストレッチャー、生体モニタなどの医療器具も、MRI検査室内に持ち込むためには専用のものが必要となる。酸素ボンベをMRI室内に持ち込み、磁場で吸い付けられた酸素ボンベがMRI装置を直撃し、破壊するという事故や死亡事故が発生している。

•T1強調画像で高信号、すなわち白く映し出されるものは、脂肪、亜急性期の出血、銅や鉄の沈着物、メラニンなどであり、逆に低信号(黒)のものは、水、血液などである。

•T2強調画像で高信号(白)のものは、水、血液、脂肪などであり、低信号(黒)のものは、出血、石灰化、線維組織、メラニンなどである。

•強磁場が人体に与える影響については、未知の部分がある[18]。そのため、妊娠中または妊娠の可能性のある場合は申し出る必要がある。

•造影剤(ガドリニウム製剤)にはT1短縮作用があるため、造影剤投与後のコントラストはT1強調画像で明瞭になりやすい。
このため通常の造影MRIではT1強調画像が撮像されることが多い。
多くの病変ではT2強調画像で高信号となるので、T2強調画像の方が目にする機会は多いが、整形外科など脂肪を重視する科ではT1強調画像が好まれる傾向にある。
T2強調画像では動脈のような早い血流では無信号、即ち真黒にみえる。
これをフローボイドという。
通常動脈は真黒に見えるのだが、閉塞があると無信号とならない、これをフローボイドの消失といい、閉塞血管の所見となる。


頭部MRI検査:脳梗塞の早期診断に有用
http://medical-checkup.info/article/42420231.html
脳梗塞の場合、CTで脳の変化が明らかに認められるには発病後2~3日を要します。
これに対して頭部MRIでは、発病数時間後には変化がわかり、脳梗塞の早期診断には極めて有用な検査です。