がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その1(1/6)

がんを見つける ~ PETの実力

苦痛なく全身を一度に検査できるがん発見の新兵器として注目されているPET検査。
国内で実施する施設は80カ所近くに増えています。
がん発見にどの程度貢献してくれるのか、その実力は気になるところです。
 
2000年に開設された西台クリニック画像診断センター(東京都板橋区)は、いち早くPET検診を導入した草分け的な存在。
PET検診とはどのようなものなのか、開設時院長宇野公一先生(現顧問)に聞きました。

PETとはどのような検査なのか
PET(Positron Emission Tomography)は体内に放射性物質を注入し、それが放出する放射線を画像としてとらえる核医学検査のひとつです。
微量の放射性物質ポジトロン陽電子)にブドウ糖を加えた18F-FDG(フルオロデキシグルコース)という検査薬液を静脈注射し、全身にいきわたるのを待って撮影します。
増殖スピードの速いがん細胞は、エネルギー源として正常細胞の3~8倍ものブドウ糖を取り込むために18F-FDGが多く集まり、がんを発見できるというわけです。

PETの得意分野、不得意分野
同じ画像診断でもCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)ががんの「形態」を映し出すのに対し、PETはがんの「活動度」を測ります。
そのため、CTやMRIでは発見しにくい1cm程度の小さながんでも拾い出すことができます。
早期発見はもちろんのこと、がん治療後の再発や他臓器への転移の観察にも大いに役立つといっていいでしょう。
 
18F-FDGの取り込み具合からがんの性質についても診断することが可能で、細胞分裂がより活発な悪性度の高いがんほど見つけやすくなります。
 
しかし逆に増殖スピードの遅い「高分化型」といわれるがんは、PETでは見えないことがあります。
また18F-FDGは尿として排出されてしまうため、腎臓や膀胱のがんの発見は困難ですし、がんの正確な位置の把握も苦手です。
しかしCTやMRIなどのほかの画像診断や生化学検査でPETの苦手な部分を補うことができるので、どのような組み合わせで検査を行なうかは非常に重要なのです。

苦痛なく全身を一度に検査できる
PETのもうひとつの特徴は、受診者に苦痛を感じさせない検査であるということです。
前処理は数時間の絶食と18F-FDGの注射1本だけ。
18F-FDGが全身にいきわたるまで1時間ほど待ち、その後は検査機器の上に横になっていれば撮影は30分程度で終了します。
注射の時以外は痛みなどの不快感はまったくありません。
部位ごとではなく全身を一度に検査できるので、患者さんにとっては負担が少なくて済みます。
PET検診は最近、がんばかりではなく、脳や心臓の疾患の発見にも利用されています。
万能ではないので検査を受けるにあたって留意する点もありますが、PETによって非常に多くの情報を得られることは確か。
上手に利用すれば受診者に大きな利益をもたらしてくれることでしょう。


<関連サイト>
PET検査](上) がん未検出85%
http://blogs.yahoo.co.jp/bone_marrow_bank/7050996.html
(見やすいイラストが入っています見やすい。読売新聞 2006年3月6日の記事の紹介です。)
国立がんセンター(東京)の研究で、がんの85%が検出できなかったことが分かった。
「PETで異常がないからといって安心するのは危険」と専門家は指摘している。
■ PETを検診に使っているのは、日本のほか韓国、台湾ぐらい。
欧米では、がん検診への有効性が示されておらず、実施されていない。
国立がんセンターに設置された「がん予防・検診研究センター」では、昨年1月までの1年間に、超音波、CT、PETなどを併用した検診を受けた約3000人のうち、約150人にがんが見つかったが、PETでがんがあると判定された人は23人(15%)に過ぎなかった。
■ 従来、組織に水分が多く糖が取り込まれにくい膀胱、腎臓、前立腺、胃などのがんは、PETでは見つかりにくいとされてきた。
■ 日本核医学会が2004年にまとめたPETがん検診の指針でも、がんの検出に「非常に有効」とされたのは、甲状腺や顔、首などにできる頭頸部がんと悪性リンパ腫(しゅ)の2種類しかない。
■ 「有効性が高い可能性がある」とされている肺がん、大腸がんのPET検診にも、国立がんセンターの調査では、効果に疑問を投げかけるデータが出た。
大腸がんが発見された人のうち、PET検査でがんが分かった人は13%、肺がんでも21%にとどまった。
■ 現時点では、どんな検査を受ければよいのか。
厚生労働省研究班の調査では、がんの死亡率を減らす効果があるとされる検診は▽乳がんのエックス線検査(マンモグラフィー)▽大腸がんの便検査▽子宮頸がんの細胞診▽胃がんバリウム検査▽肝がんの肝炎ウイルス検査――がある。
このほかにも、肺がんの場合、「高速らせんCT」と呼ばれる高性能CTで、早期がんの発見率が高まったとの報告がある。
さらに卵巣がんに超音波検査、乳がんには超音波と視触診の併用検査、前立腺がんにPSA前立腺特異抗原)と呼ばれる血液マーカー検査などが行われている。
だが、これらの検査は、がんの発見率こそ高いものの、死亡率の減少につながるとまでのデータはない。
小さながんが発見されても、すぐに命にかかわるものは多くないからだ。

<私的コメント>
登場以来、一躍脚光を浴びたPETですが、がん発見の万能の検査ではないことがわかります。
がんの診断のついた方の経過観察(治癒や悪化の傾向や転移の診断)には保険が適応されます。
しかし、人間ドックには保険がきかず100%自己負担です。
高い検査料金を払って、それだけの意味があるのかをきちんと理解する必要があります。