iPS細胞でパーキンソン病治療

iPS細胞でパーキンソン病治療、京大が8月に治験開始

京都大は2018年7月30日、ヒトのiPS細胞からつくった神経細胞を、パーキンソン病の患者の脳に移植する臨床試験(治験)を8月1日から始めると発表した。
対象となる患者は、薬物治療では症状が十分にコントロールできなくなりつつある50~60代の7人で、1人目の移植は京大病院が年内にも実施する。

iPS細胞でパーキンソン病治療 京大で臨床試験開始へ
iPS細胞からつくった細胞を実際の患者に移植するのは、理化学研究所などのチームによる目、大阪大のチームによる心臓に続き国内で3例目。
パーキンソン病では世界初となる。
 
京大は6月4日に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出した治験計画が受理され、今月24日に学内で認められた。
治験は公的医療保険を適用した治療にするために必要な手続き。
理研や大阪大などが行う「臨床研究」より実用化に近い。
iPS由来の細胞を移植する治験は今回が初めて。
 
パーキンソン病は、ドーパミンという物質をつくる脳内の神経細胞が減少し、手足の震えや体が動きにくくなるといった症状が出る。
厚生労働省の調査で、国内に16万人の患者がいるとされる。
高齢化とともに患者は増えている。
 
京大によると、移植に使うiPS細胞は患者の細胞からつくるのではなく、同大iPS細胞研究所があらかじめ第三者の細胞からつくったものを使う。
ドーパミンを産生する神経のもととなる細胞をつくり、手術で患者の頭部に開けた直径12ミリの穴から、特殊な注射針を使って脳に移植する。
 
ヒトのiPS細胞からつくった神経細胞パーキンソン病カニクイザルに移植した研究では、移植後2年間、行動を観察したところ、震えが減り、動ける時間が増えるなどの症状の改善がみられたという。
拒絶反応を抑えるため、移植から1年間は免疫抑制剤も使用する。

<私的コメント>
カニクイザルのパーキンソン病モデルがあることにも驚きです。

薬や、脳に電極を埋め込む治療などがあるが、根治療法ではない。
薬は長期間使ううちに、効果が薄れてくる場合も多い。
iPS細胞による細胞移植も、神経細胞の減少を抑えることはできず、患者が完全に健康な状態に戻るのは難しいとされる。
ただ、治療の新たな選択肢として加われば、症状を改善させ、患者の生活の質(QOL)を上げるなどの効果が期待される。
将来的に実用化された場合は、薬による治療などと組み合わせながら、使われていくことになりそうだ。
 
患者や家族らでつくる「全国パーキンソン病友の会」は2013年から京大iPS細胞研究所に対し、計500万円を寄付してきた。
患者だった妻を10年前に亡くした、代表理事の長谷川更正さん(83)は「現在はいろいろな治療法があるが、それでも十分でない患者も多くいる。iPS細胞に対する期待は大きく、『いよいよだ』という思いがある。治験に参加したいという声は多いが、治験の結果はまだ分からない。治験がうまくいって、一般的な医療となり、患者さんたちにすすめられる治療となってほしい」と期待を込める。
 
大阪大の望月秀樹教授(神経内科)は「iPS細胞を使った治療法がうまくいけば、現実的な切り札が増えると期待している」としたうえで、「ただし、人での安全性や効果の確認はまだこれからで、最初の一歩の段階だ。脳の画像検査は進歩しているので、入れた細胞がどう働いているのかを長期的に見ていく必要がある。京都大のチームはサルの実験などで慎重に長期間研究してきたので、治験をするのが早すぎるということはないと感じている」と話す。

腫瘍化の恐れも
一方、慎重さも求められる。
患者に移植する細胞の数は計500万個。
大阪大のチームが進めている心臓病での約1億個に比べれば少ないが、理研などのチームによる目の難病「加齢黄斑変性」の約25万個に比べるとかなり多い。
神経細胞に変化しきれなかったiPS細胞などが混じれば、患者の体内で腫瘍になるおそれがある。
 
脳内の移植では細胞を直接観察することはできないため、定期的に画像検査をしながら確認していくことになるという。
 
京大iPS細胞研究所の高橋淳教授(脳神経外科)は30日会見し、「動物実験で、有効性、安全性の評価はこれでもかとやってきた自負はあるが、患者さんを治してこそなので、ようやくスタート地点に立てた」と話した。
 
京大病院は治験の参加者を募集する。病気になって5年以上で、進行度が早期~中期の人。
詳しい条件は病院のサイトで確認できる。

参考・引用一部改変
朝日新聞 2018.7.31

<関連サイト>
「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」開始について
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/180730-170000.html

パーキンソン病、脳血管障害に対する iPS細胞由来神経細胞移植による 機能再生治療法の開発
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1235_05.pdf

由来神経細胞移植による機能再生治療法の開発
http://www.jst.go.jp/ips-trend/symposium/pdf/no05/poster/ks_a02.pdf

京大iPS治験が本格始動 パーキンソン病、世界初
https://www.sankei.com/west/news/180801/wst1808010025-n1.html
人の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞を作り、パーキンソン病患者の脳内へ移植する京都大チームの治験が1日、本格始動した。
 
パーキンソン病でのiPS細胞を利用した治験は世界初。
現場の医師が主体となり安全性や有効性を検証する医師主導治験として進め、保険適用を目指す。
年内に1例目の移植を計画しており、新たな再生医療として実用化するのか注目される。
 
パーキンソン病は脳内で神経伝達物質ドーパミンを出す神経細胞が減り、体のこわばりや手足の震えが起こる難病で、根本的な治療法はない。
 
治験は京大病院が京大iPS細胞研究所と連携して実施。
計画では、京大が備蓄する、拒絶反応が起きにくい型の他人のiPS細胞から作った神経細胞を脳内に移植し、ドーパミンを出す神経細胞を補う。
対象患者は7人で、6人は全国から募集し、1人は京大病院の患者から選ぶ。
50~60代で、薬物治療で十分な効き目がなく、5年以上パーキンソン病にかかっていることなどが条件。
 
1日から、募集患者の具体的な検討や、患者への治験方針の説明が可能になるという。
京大病院はホームページに治験の概要や対象患者となるかをチェックする書類などを公開している。
 
観察期間は2年間を想定。
脳内に腫瘍ができないか、運動症状や生活機能がどれだけ改善するかを確かめる。