低体温症

死者は熱中症の2倍 低体温症、季節問わず注意を

福岡市内の某県立高校で9月8日、体育大会の最中に生徒が寒さや気分不良を訴え、36人が救急搬送された。一部の生徒は低体温症の疑いもあった。
まだ暑さの残る時期に、何があったのか。
 
正午過ぎ、体育大会の最後の演目が始まる直前、寒さによる震えのほか過呼吸の症状を訴える生徒が相次いだ。
学校や保護者によると、症状が連鎖し集団パニックのような状態になった。
1~3年の男女36人が搬送されたが全員快方に向かい、帰宅した。
 
運動場ではこの日、午前10時前から雨が降り始め、やがて本降りに。
女子のダンスでは、半袖に裸足姿の生徒たちが寝そべる振り付けもあり、泥にまみれ、ずぶぬれになったという。
 
「寒い」「歩けない」。
パネルで文字を作る応援合戦が終わるころに不調を訴える生徒が続出した。
最後の演目の全校応援を残して大会は中止になった。
 
「寒さと緊張が原因で過呼吸を引き起こしたと思う。もう少し、もう少しと思ってしまった。この時期に体が冷えるという感覚が足りなかった」。副校長は中止判断の遅れを悔やむ。
 
福岡市内は9月に入っても最高気温30度を超す暑さが続いた。
同校はテントや氷水を用意し、熱中症対策はしていた。
雨と気温低下に備え冬用ジャージーや着替えの準備も指示。だが、大会中に着替える時間はなく、生徒たちはぬれた体操服で約2時間過ごした。

急な気温差、体は適応できず
雨や風に長時間さらされたり、気温が急激に下がったりといった要因が重なれば、夏でも低体温症や、体へのストレスによる過呼吸になり得る。

今回の場合、正午の気温は21.9度で、前日の同時刻より5.3度も低かった。
急に気温が下がったことで、体が寒さに適応する「寒冷順化」がうまくできなかった可能性もあるとみる。
 
低体温症は、体温が35度以下で震えや判断力の低下、意識障害が起き、重篤の場合は死に至る。
 
厚生労働省の調査では、2017年に低体温症で亡くなったのは1371人。
熱中症の635人の2倍以上だ。
 
夏場でも低体温症になる事例は各地で起きている。
 
09年7月には北海道大雪山系で登山ツアーの客とガイド計8人が凍死。
風雨のなか下山を強行し、低体温症で思考や運動能力が奪われたとみられ、低体温症の危険性が注目されるきっかけになった。
13年7月には、東京都内の屋外競技場で開かれたアイドルのコンサート中に雨が降り、低体温症とみられる症状で搬送される観客が相次いだ。

ラソンも危険
風雨に長時間さらされるマラソンも、低体温症になりやすい。
今年2月の東京マラソンでは、救護所を利用した928人のうち、8%が低体温症と診断された。
川内優輝選手が優勝した今春の米ボストン・マラソンは風雨の中で開催され、2千人を超えるランナーが治療を受けたと地元紙が報じている。
 
これから冬にかけて市民マラソンが各地で開催される。
イベントでの低体温症は医療関係者の間でも十分認識されていないが、時として命の危険もあり軽視できない。
運営者は天気予報に注視し、熱中症だけでなく低体温症も想定しておく必要がある。

屋外活動で震えが止まらないなどの症状が出れば、ぬれた服を脱がせてタオルで拭いたり、毛布でくるんだりし、体温を高める処置が重要となる。
 
人間は極めて狭い範囲の温度でしか正常に活動できず、気温が20度ほどでも、衣服がぬれて保温できなくなれば、その温度の水中にいるのと同じ。
夏冬を問わず天候次第で起きるという認識が必要だ。

参考・引用一部改変
朝日新聞デジタルアピタル)2018.10.01