インフル治療に新薬ゾフルーザ 専門医は慎重

インフル治療に新薬ゾフルーザ 専門医が慎重なワケは

インフルエンザが全国的な流行期に入った。
例年通りであれば、1月末ごろから3月上旬に流行のピークを迎えることになる。
そんな中、注目されているのが今春に発売された新しい治療薬「ゾフルーザ」だ。
1回の服用で済むため、ネットなどでは「画期的な治療薬」などとの評価も見られる。
一方、専門医や学会からは慎重な声もあがっている。

細胞に入り込み、ウイルス増殖を阻害
「患者さまに非常に大きな新しい選択肢を提示できました」

11月下旬、塩野義製薬の社長は日本記者クラブ(東京)で開かれた記者会見でこう語った。
ゾフルーザを開発したのが同社だ。

現在、国内で承認されていて、日常的な診療に使われているインフルエンザ治療薬は計5種類。
ゾフルーザ以外には、タミフルリレンザ、イナビル、ラピアクタがある。

ゾフルーザが登場する前からあった、タミフルなどの四つの治療薬は、ウイルスが細胞から出て周囲に広がるのを防ぐことで、ウイルスの増殖を抑えるという仕組みがある。

これに対してゾフルーザは、感染した人の細胞に入り込んだインフルウイルスが増殖するときの働きを阻害する仕組みだ。
このため、仮にタミフルなどが効かない新型ウイルスが登場した場合でも使える利点がある、とされている。
実際、2008年から09年のシーズンに、タミフルが効かない耐性ウイルスが登場したことがあった。
同様のケースがいつ起きるかはわからない。

効果はタミフルと同等、服用は1回だけ
実は国内では、ゾフルーザと同じように細胞内でのウイルスの増殖を邪魔する治療薬アビガンが開発された。
だが、妊婦が服薬すると胎児に副作用が出る可能性が高いという「弱点」がある。
そのため、使うことに高いハードルが設けられ、従来のほかの治療薬が効かない新型インフルエンザが登場し、国が判断したときだけしか使用が認められていない。

しかも、ゾフルーザはタミフルと効果が同等。
同じようにのみ薬だが、ゾフルーザは1回の服用で済む。
タミフルは1日2回で5日間のまなければならない。

私的コメント
私の印象も患者さんの感想も、ゾフルーザはタミフルより明らかに「切れ味」がいいようです。

リレンザやイナビルはぜんそく患者に慎重に使う必要があるほか、吸い込みがうまくできない人には使用が難しい。
ラピアクタは注射薬で、入院患者などに使われている。
こうした状況から、医師の間でも12月以降の今シーズンに、ゾフルーザが相当使われるのではないかという見方が強まっていた。

私的コメント
インスリン注射薬に「アクトラピッド」という薬剤があります。
ラピアクタと間違えて点滴したら大変なことになります。

耐性ウイルスに懸念の声
そんな期待の新薬だが専門医の間では慎重な意見も出ている。

ゾフルーザはまだまだ位置づけが不明な薬だ。
今後、臨床データを蓄積して分析していく必要がある。
新薬には予測できない重い副作用がまれに起こることがある。

1回の服用で済むということは、それだけ体の中に残る時間が長いということでもある。
万一、重大な副作用が生じた場合に、なかなか薬が抜けることができず、症状の改善がしにくい恐れがある。

私的コメント
このようなことは、様々な薬剤が登場するたびに心配されて来ましたが、多くは問題もなく使われ続けている薬剤が大半です。
例えば、インフルエンザ治療薬のイナビル、そして骨粗鬆症治療薬の月1回服用の薬剤(年1回の薬剤も出ています)や1回の内服で済む抗生剤のジスロマックSR成人用ドライシロッなどです。

また別の大きな問題はゾフルーザの使用によって、耐性ウイルスが出る可能性についてだ。

ゾフルーザの臨床試験では、子どものA型インフルエンザ患者の23.3%で、ウイルスに耐性を示す遺伝子変異が認められた。
成人対象の臨床試験でも9.7%が認められた。
このように耐性ウイルスの出る割合は相当高い。
一方、タミフルラピアクタは1~2%とされる。

遺伝子変異はどの程度まで症状への効果に影響があるのかなど不明な点もある。
ただ、薬の効き目が薄れることは認められている。
使う人が増えれば、もっと耐性を持ったウイルスが登場する可能性もある。

WHOも監視 小児科学会は推奨せず
WHOの世界インフルエンザ監視チーム(GISRS)では、この治療薬が承認された日米と、まだ承認されていないオーストラリアを比較しながら、耐性ウイルスの監視を始めている。
いずれはゾフルーザの耐性ウイルスのチェックに向けた国際基準がつくられる予定だ。

塩野義社長も先にふれた会見で、耐性ウイルスへの懸念を認めた。
ゾフルーザも乱暴な使われ方すると耐性ウイルスが出るかもしれない。
どこかの段階で耐性が出る。
そのときはどうするか準備をしておかなければいけない。

私的コメント
耐性ウイルスは耐性菌と同じで新しい薬剤が次々に開発されればいいのですが、現実はそうはいきません。
使用したい医療提供側と患者が存在する限り、なんらかの「適応のしばり」が必要であることは間違いありません。
当然のことながら、製薬メーカーはどんどん使用してもらいたいのが本音のはずで自主規制をするとは思えません。
ゾフルーザを認可した厚労省の動きはどうなのでしょうか。
作用機序が全く異なるゾフルーザに耐性ウイルスが多く発生するというは、今後同様の作用機序(インフルウイルスが細胞内で増殖するのを阻害)の抗インフルエンザ薬でも同様のこと(耐性ウイルスの増加)が懸念されます。
また、耐性ウイルスに感染した場合にゾフルーザは効果がなくとも従来の抗インフルエンザ薬が奏功する可能性があります。
そして耐性ウイルスに感染した場合に、ゾフルーザが効かないだけでなく他の問題が生じるのかどうかも知りたいところです。

日本感染症学会インフルエンザ委員会は10月、ゾフルーザの添付文書をもとに、課題などをまとめた文書を公表。
遺伝子変異による治療薬の効果の低下などについて、「感受性が50倍程度低下するが、臨床効果への影響、周囲への感染性は、現在のところ不明である。今後の臨床症例を蓄積して、当薬剤の位置づけを決めていく必要がある」と結論づけた。

日本小児科学会も10月に公表した今シーズンの治療指針で、ゾフルーザについて「十分なデータを持たず、現時点では検討中である」と推奨には至っていない。

いま販売されているゾフルーザは錠剤だが、小さい子どもや高齢者がのみやすい顆粒剤はまだ販売されていない。

私的コメント
来シーズンには発売予定です。

ゾフルーザについてはまだわかっていないことも多い。
「A型(インフル)では耐性が出ているので使うのを控えたいが、B型(インフル)は使ってもやむを得ないと思う。また高齢者や小児に使うことを避けるなど、当面は慎重に使うべきだ」と、ある専門家は話す。

参考・引用一部改変
朝日新聞 2018.12.18