禁煙外来、スマホで遠隔診療

禁煙外来スマホで遠隔診療 働く世代も受診続けやすく

ニコチン依存症を治す禁煙治療。
条件を満たせば公的医療保険が使えるが、通院をやめて失敗する人も後を絶たない。状況を改善しようと、スマートフォンなどを通じた遠隔診療で禁煙治療を提供する取り組みが少しずつ広がる。
治療を支援するアプリの開発も進んでいる。

都内の企業に勤める喫煙歴22年の男性(42)は昨年末、会社の健康保険組合(健保)が実施主体で、費用を助成する「完全遠隔禁煙外来」を利用し始めた。
 
最初はスマホで職場から、その後は自宅から。
診察は1回約15分。
スマホの画面越しに、医師から喫煙状況や治療のきっかけを聞かれ、吸いたくなった時の対処法などについて助言を受けた。
予約はネット上で、待ち時間もない。
診察と診察の間には、チャット機能で医師に相談できる。
自宅に送られてくる薬をのみ、すぐに禁煙できた。
 
「寝起きが良くなり、食事がおいしくなった。都合に合わせて受診できたのが大きい」と男性は言う。
 
たばこに含まれるニコチンは、依存性が強い。
血液を通して脳に運ばれ、「ニコチン受容体」に結合すると、快感物質のドーパミンが放出される。
逆にたばこを我慢すると、ドーパミンが出ずイライラする。
この繰り返しで、依存が強くなる。
 
ニコチン依存症の治療は、2006年度から保険診療になった。
①所定の判定テストで5点以上
②「1日の喫煙本数×喫煙年数=200以上」――などが対象になる条件。
若いと対象になりにくかったため、16年度から35歳未満の人は、②に当てはまらなくても保険が使えるようになった。
 
標準的な治療は、12週間に5回通院する。
医師から助言を受けるほか、ニコチンの離脱症状を和らげるために皮膚からニコチンを吸収する貼り薬やガム、のみ薬などの禁煙補助薬を使う。
費用は、貼り薬だと自己負担3割で約1万3千円、のみ薬は約2万円。
費用を助成する自治体も増えている。
 
だが17年の厚生労働省の調査によると、治療開始から1年後の禁煙成功率は27%。
受診回数が多いほど成功率は高い傾向だが、5回全て受診した人は全体の約3割にとどまっていた。
 
「ニコチン依存症は、病気だとまず認識してほしい。喫煙率が高い30~40代は多忙で、受診する時間がない、と途中で来なくなることもある」と禁煙外来の医師は話す。
 
継続の難しさなどを背景に厚労省は17年7月に通知を出し、健保が実施主体となる禁煙外来について、対面診療なしの「完全遠隔診療」を認めた。
保険はきかず自由診療となる。
 
禁煙に成功した男性もこの仕組みを活用した。スマホやパソコンのテレビ電話を使って診察する面談システムを開発した「メドケア」(東京都)によると、17年度から日産自動車など大企業を中心に、のべ26健保が導入。
オンライン禁煙治療を提供する企業が増えている。禁煙治療に詳しい地域医療振興協会の中村正和医師は「遠隔診療は、時間がない働く世代にアプローチできる。
途中でやめる人を減らすことにつながるのではないか」と話す。

禁煙を支援するアプリも
禁煙の継続を支援するニコチン依存症向けのアプリが開発され、保険適用を目指す動きも出ている。
 
14年の法改正で、安全性や効果を証明すれば、アプリも医療機器に認められるようになった。
この年創業の「キュア・アップ」(東京)は、慶応大と共同でアプリを開発。
17年10月に臨床試験(治験)を始め、承認に向けての準備を進めている。
 
禁煙治療では、次の診療までに2~4週間の間隔がある。
この期間に喫煙してしまう人は少なくない。
アプリでは、利用者が衝動や体調、薬の使用状況を入力。その内容から学会の指針などに基づき、自動的に助言が表示される。
例えば「たばこを吸いたい」と入力すると、「ガムをかみましょう」と助言され、禁煙の継続を後押しする。
 
呼吸器内科医でもあるT社長(36)は「禁煙補助薬など従来の治療に加え、日常の習慣など心理的な面で患者をサポートするのにアプリが役立つだろう」と話す。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.3.20