薬飲む前に生活習慣を改善

薬飲む前に生活習慣を改善

高血圧は心筋梗塞脳卒中などを引き起こす生活習慣病で国内の患者数は4300万人と推計されてい。

英医学誌で10月に衝撃的な論文が掲載された。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬というタイプの血圧を下げる薬を服用すると、肺がんのリスクが増すというのだ。
国立がん研究センターは肺がんを発症する患者数が年間12万5100人にのぼると推計している(2018年予測)。
同予測では年間の肺がん死亡者数は約7万7500人で、全がん中トップだ。

ACE阻害薬はカルシウム拮抗薬、アンジオテンシン2受容体拮抗薬(ARB)などと並び、治療時に最初に投与される「第1選択薬」に高血圧治療のガイドラインは定めている。
血圧降下剤を服用している高血圧患者は1千万人強だが、ACE阻害薬は約200万人に処方されているポピュラーな薬だ。

ACE阻害薬にはコスト面でも強みがある。
ARBの自己負担額が1錠100~140円程度なのに対して、ACE阻害薬は30~60円と開きがある。

論文をまとめたカナダの研究グループが約100万人の高血圧患者を20年間にわたり追跡したところ、ACE阻害薬を服用した群は、ARBを服用した群に比べて肺がんの発症率が14%もアップしていた。
さらに、10年を超えて服用すると発症率は31%も上回るという。

データはサンプル数が多く追跡期間も長いので、信頼性は高いといえる。
しかし、あくまでも疫学研究であり、ACE阻害薬と肺がん発症の因果関係を証明するものではない。
ただ、ACE阻害薬はブラジキニンなどの物質の肺への蓄積を起こすことから、長期間使うと腫瘍の増殖と血管の新生を促す可能性が指摘されてきた。

今後、同様の調査結果が続くようなら、高血圧の治療に大きな影響を与えるかもしれない。
糖尿病の薬がぼうこうがんを増やすというデータもある。
がんを防ぐ生活習慣は高血圧や糖尿病の予防にもつながる。
薬を飲む前に生活習慣の改善に努めたい。
東京大学病院・中川恵一 准教授)

日経新聞・夕刊 2018.12.19