お医者さんはいませんか?

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斎藤三郎 娘 エアリ 油彩4号
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10月21日の日曜日。
東京で行われる全国的な講演会に出席するために朝早く新幹線に乗りました。
10時から開演ということで随分早起きしたため途中うとうとしていました。
自前でグリーン車なんて乗る訳ないんですが、たまたま手配してくれる人が
いたものですから9号車グリーン席にガラにもなく座って気持ちよく
まどろんでいました。

そんな平和な空気を破る、車内アナウンス。
「お客様にご案内申し上げます。2号車に急病人が発生しました。お医者さん
はお見えになりませんか?」

エッセイなどで飛行機の中などで同じような場面に遭遇した話は読んだことが
しばしばあります。

そこですぐに駆けつけないのが内科医です。
いろいろ考えました。
「講演会に向かうドクターも沢山乗っているはずだ。」
「この新幹線の乗客数からは何人ドクターは乗っているのだろうか」
「えっと、日本の人口が1億としてドクターはたしか30万人だっけ。
新幹線だともっと多い割合のはずだし。」
「駆けつけて恥をかくことはないだろうか」

そんな中、外の景色を見ると走っている新幹線の姿が工場のガラスにみごとに
映し出されます。そんなことが2度3度。
「行かなくて本当にいいんだろうか?自分は医者だよな。公費で医者にさせて
貰ったんだよな」

そして考え続けます。
「2号車に駆けつけることと駆けつけないこととどっちが後悔するか」
そこで腰を上げトイレに行く素振りでゆっくり2号車に向かって歩き始めました。
8号車もグリーン車で空いています。
みんな気取った感じで自分の世界です。
7号車からは普通席で満席状態で一斉に見つめられているという視線を感じます。
さりげなく歩いて2号車に着くと4、5歳の女の子が座席に横たわってスヤスヤ
寝ていて、その横にお母さんがいます。
意外と平和な光景です。
そこには先着のドクターが2人いて最初にかけつけたのが整形外科の先生
、二人目の先生が内科と自己紹介がありました。
どうやら癲癇(てんかん)発作の後で眠っているとのこと。
「先生は何科ですか」と聞かれたので、すかさず「循環器科」と答えました。
開業での標榜科目は内科・小児科ですが機転(?)を効かしての咄嗟に
答えてしまいました。
「落ち着いているようですので失礼します。」
と言って踵(きびす)をかえして、また9号車まで戻ってしまいました。
私はそんな情けない医者です。

懺悔

<追記>1
もし駆けつけて(微妙な遅れはありましたが)いなかったらきっと後悔して
いたと思います。
新幹線「のぞみ」は途中の駅で臨時停車をして親子はそこで降りました
(降ろされました)。
(多分救急車が待機していて最寄りの病院へ搬送されたものと思われます。)
見た感じではそのまま東京まで行った方がいいのにと内心思いましたが。

後続のひかりを含めて5分の遅れです。
これで人世がくるった人もいたかも知れません。

動き出した時のアナウンスがちょっと大袈裟でした。
「人命救助が無事完了しました。皆様のご協力誠に有り難うございました。」

JRの美談が誕生した瞬間でした。

<追記>2
JRに勤務してみえる患者さんがたまたま受診されました。
きのうのことを話しました。
「急病人が発生した時は原則的に臨時停車させます。」
「新幹線の乗車定員は1323人です。きっとお医者さんはもっとたくさん
乗っていたと思いますよ。」


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