粒子線施設計画ラッシュ

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「切らずにがん治す」全国17カ所で

世界の4割集中へ/神奈川・愛知…一部地域に偏り/治療効果や採算に課題/
建設費100億円/患者負担300万円

「切らずにがんを治す」をうたい文句に、X線より強力な「重粒子線」や「陽子線」を活用した
治療施設の計画が、全国20カ所近くで持ち上がっている。
最先端施設の誘致を掲げた町おこしの様相だ。
建設費は1施設約100億円と言われ、税金や民間資金が投入されるが、採算性や地域偏在など
課題は山積している。
放射線治療後進国・日本での過熱ぶりに疑問の声が上がり始めた。


名古屋市中心部から車で30分。
愛知県大府市にある国立長寿医療センター近くの農地は、3年後には重粒子線の治療施
設に生まれ変わる予定だ。
名古屋大放射線科などによるベンチャー企業が資金を調達し、県もかかわる総額約170億円
のプロジェクトで、近く着工する。

これとは別に、名古屋市も3年後、新設する市の医療センターに陽子線治療施設を併設する。
担当者は「高齢社会でがん患者も増える中、新しい治療法を提供したい」と胸を張る。
だが、関係者からは「県内に2施設もいるのか」と疑問の声も上がっている。
文部科学省のまとめでは、建設中も含め、全17カ所で重粒子線や陽子線など「粒子線」施設の
計画がある=地図。                
うち十数カ所は自治体がかかわり、税金が使われる。
神奈川でも民間1施設のほか県と横浜市が同市内に別々に計画を打ち出した。

国際粒子線治療共同グループのまとめでは、世界に重粒子線は3施設(うち日本に2施設)、
陽子線は26施設(同5施設)ある。
日本以外の建設計画は約20カ所。
計画通りに進めば世界の粒子線施設の4割近くが日本にできることになる。

粒子線治療は早期の肺がんなら1回の照射で済む場合もあり、患者の期侍は高い。骨や頭部の
がん治療にも効果を上げている。


ただ、本格化したのはこ10年ほどで、研究途上の治療だ。実力はどうか。

国立がんセンター東病院(千葉県柏市)で陽子線治療を担当する荻野尚部長は「粒子線が
従来のX線治療や手術に比べ5年生存率などで優れているというデータは世界的にもまだない」
と言う。

さらに、転移したがん、不規則に臓器が動く胃がんや大腸がんなどは対象外。
適しているとされるのはがん患者全体の15%程度にとどまる。

粒子を飛ばす加速器は高額で、土地代を含めた建設費は1施設100億円前後に上る。
しかし、研究段階なので公的医療保険は適用されず、患者の負担は治療費だけで約
300万円にもなる。

既存の施設も苦戦している。
年間約500人の患者が来る放射線医学総合研究所(放医研、千葉市)や兵庫県立粒子線医療
センター(たつの市)以外は患者数が伸び悩み、国立がんセンター東病院でも100人程度だ。

こうした厳しい市場に参戦するのに、見通しの甘い計画が目立つ。
建設費を回収し、年間十数億円の維持費を工面するには、最低でも年間500人程度の患者が
必要だとされる。
だが各施設とも具体策は乏しく、「患者の奪い合いになる」と予想する医師もいる。

放医研の辻井博彦センター長は「国際的には粒子線施設は人口1千万人に1施設と言われている。
日本に20施設は多すぎる」と警告する。

計画が相次ぐ理由を、東大先端科学技術研究センターの米山隆一特任講師は「自治体の首長は
夢のある話が欲しい。粒子線施設は打って付けなのだろう」とみる。

原子力施設の新設が離しいなかで、メーカー側が技術を生かせる粒子線施設に活路を求め、
営業を強めた結果だ・・・こう解説する医師もいる。

態勢・医師確保に不安

放射線の専門家 米の10分の1

がん対策の構造的な問題も立ちはだかる。

曰本のがん治療瞳は手術が重視され、放射線治療は軽視されて
きた。
放射線治療医は国内に約500人、線量などを計算する医学物理士は300人程度しか
いない。
米国の、10分の1以下で、態勢は盤石ではない。
続々と粒子線施設ができても、このままでは要員の確保さえ難しい。

京大放射線治療科の平岡真寛教授によると、欧米ではX線を集中させる強度変調放射線治療
(IMRT)が、がん治療を行うほとんどの病院で受けられるなど実績を積んでいるが、
日本では、10施設程度。
「IMRTは数億円で導入できる。

数億円で導入できる。
粒子線を否定はしないが、現在行われているX線治療を強化すべきだ」と訴える。
東大放射線科の中川恵一准教授も「国産車もあまり走っていない国に高級外車をど
んどん走らせるようなもの。行政や住民が必要性を議論すべきだ」と警告する。

こうした声に対し、国は「造るなとは言えない」と調整に及び腰だ。

一方、日本放射線腫瘍学会は13曰からの福岡市での学術大会で、「粒子線治療はどこまで必要か」
と題した討論会を開く。
施設の適正配置などについて初めて論議する予定だ。




<自遊時間>
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