末期認知症への人工栄養補給

末期認知症への人工栄養補給、医師の9割「判断困難」
口で食べられない認知症末期患者の高齢者らに対し、腹部にあけた穴から管で胃に栄養分を送る「胃ろう」など人工的な栄養・水分補給を行うかどうか判断する際、約9割の医師が難しいと感じていることが27日、日本老年医学会の調査で分かった。
終末医療のあり方を巡る医療現場の困惑が浮かび上がった。

調査は昨年10〜11月、同学会の医師約4500人を対象に郵送で実施。
1554人から回答を得た。

日本の医療現場では、人工的な栄養・水分補給法(ANH)として、胃ろうのほか、点滴や、鼻から通した管で胃に栄養分を送る方法などが実施されている。

調査では、認知症末期患者に人工的補給を行うかどうか判断した経験があると答えた1058人のうち、16%が「非常に大きな困難を感じた」、46%が「ある程度の困難を感じた」と回答。
27%が「少し困った」としており、約9割が抵抗を感じていた。

困難を感じた理由(複数回答)は、4分の3が「本人意思が不明」、半数以上が「家族の意思が不統一」と回答、患者本人の意向が分からない中で対応に苦しむ医師が多い。

補給を控えた場合の「倫理的問題」を指摘する人が半数、刑事罰に問われるなど「法的問題」との回答も2割に達し、延命重視を伝統とする日本の医療文化を色濃く反映する結果となった。

いったん実施した補給を中止した経験のある医師は44%。
理由として、うち7割が「下痢や肺炎などの医学的理由」を挙げた一方、「患者家族の強い要望」が4割、「患者の苦痛を長引かせる」「患者の尊厳を侵害する」との回答はいずれも2割前後だった。

日本の医療現場では延命重視の伝統が根強い一方、回復の見込みのない末期患者への人工的補給には疑問の声も少なくない。
同学会は「終末医療にも延命重視から自然なみとりまで多様な選択肢が必要」とし、今回の調査結果などを基に指針を作成する方針だ。

出典 日経新聞 Web刊 2011.2.27
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終末期の人工栄養補給、中止可能に…学会指針案
高齢者の終末期における胃ろうなどの人工的水分・栄養補給は、延命が期待できても、本人の生き方や価値観に沿わない場合は控えたり、中止したりできるとする医療・介護従事者向けの指針案が4日、東京大学(東京・文京区)で開かれた日本老年医学会のシンポジウムで発表された。

近年、口で食べられない高齢者に胃に管で栄養を送る胃ろうが普及し、認知症末期の寝たきり患者でも何年も生きられる例が増えた反面、そのような延命が必ずしも本人のためになっていないとの声が介護現場を中心に増えている。

そこで、同学会内の作業部会(代表・甲斐一郎東大教授)が試案を作成した。
広く意見を募って修正し、来年夏までには同学会の指針としてまとめるという。

出典 読売新聞 2011.12.5
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