ヒートショック、高齢者は警戒を

高齢者が冬、気をつけなければならないのが、急激な温度変化に伴って起きる体調不良の「ヒートショック」だ。
入浴時に血圧が乱高下し、意識障害心筋梗塞などを起こす。
溺死や転倒につながるケースも少なくない。
入浴中の急死者数は年間1万人を超えるともいわれている。
身近に潜むヒートショックはどのように避けることができるのか。

「1万人超が急死」
「入浴中に急死する人の数は全国で年間約1万4000人。
そのうち約1万1000人が65歳以上の高齢者。交通事故による死亡者数を大幅に上回っている」。
こう話すのは東京都健康長寿医療センターの高橋龍太郎副所長。
1999年10月から2000年3月にかけて、東京消防庁と協力して実施した調査から推定した。
ほぼ10年前の数字だが、「その後も高齢者の数は増えており、今も数字は大きくは変わっていない」という。

冬場の暖房が利いた部屋から出て、寒い脱衣所で服を脱ぐと、体温が一気に下がる。
体温を調節するために血管が収縮し、血圧や脈拍が上がる。
この際、特に血圧が高い高齢者だと、心筋梗塞脳梗塞などを起こす危険が高まる。

入浴中の急死のほぼ半数が毎年12~2月の冬場の3カ月間に起きていると考えられる。

とくに危険なのが湯船につかる瞬間だ。寒い浴室から急に熱い湯に入ると、今度は血管が拡張し血圧が下がる。
高血圧の人は体の調整機能が過剰に働き、血圧の下降幅が大きい。
こうなると、脳の血流量が減って意識障害が起こり、浴室で転倒したり、溺れたりする。
浴槽内で溺れると、のどがけいれんして窒息し、3~5分程度で死に至る例が多い。

入浴後も寒い脱衣所に出ると、再び血圧が上がり心筋梗塞などのリスクが高まる。
浴室のほか、寒いトイレや洗面所でも血圧が上がるため注意がいる。

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暖房設備で対策を
ヒートショックをどう予防すればいいのか。
さかい医院(川崎市)の堺浩之院長は「家の中での温度差を解消し、家全体を快適な温度に保つ『サーモフリー』を目指すことが大事」と指摘する。
部屋ごとの温度差を3度以内に収めるのが理想という。

まずはトイレや洗面所、浴室に暖房設備を置く。
浴室にはマットやスノコを敷き、入浴時の体温低下を防ぐ。
湯の温度も42度以上ではリスクが高まるので、41度以下のぬるめを保つようにする。
湯船につかる前には手や足など心臓から離れた部位から順番に湯をかけていき、体を徐々に温めていく。

冬場は寒くなりすぎないよう、比較的暖かい日没前に入浴を済ますのも手だ。
ヒートショックによる溺死は、70~80歳代を中心に1人で入浴する高齢者に多い。
浴室が暖かく入浴時もほかの人の目に触れる公衆浴場を利用するのもよいだろう。

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肥満の人もリスク
中年や若者はヒートショックとどう向き合うか。
持病のない健康な人はリスクが低いが、血圧が高い人、太り気味の人、飲酒量が多い人は気をつけたい。特に極度の肥満の人は皮下脂肪が多く、体温調節が苦手なため血圧が激しく上がったり下がったりする傾向があり、危険性が高い。

今冬は夏に続いて節電が求められる。
暖房器具の使用を控えれば、ヒートショックも減ると考えるかもしれないが、専門家は懐疑的だ。

仮に室温を20度に抑えたとしても、温度差が10度以上あれば、ヒートショックは起こる。
家の構造やその日の気温にもよるが、洗面所や浴室は10度を下回ることも多い。

細かい気配りを重ねることでヒートショックを避けることは可能だ。
「浴槽にシャワーで湯を張って入浴前に浴室を暖めたり、心臓から下だけを浴槽につけたりする工夫も役立つ」(堺院長)

また、お金はかかるがリフォームによって家の気密性を上げるのもお勧め。
古い木造建築はどうしても気密性が低く、浴室などが寒くなるからだ。

冬場の落とし穴ともいえるヒートショック。
この現象を正しく知っておくだけで、寒い冬を健康に過ごすことができる。 (草塩拓郎)

出典 日経新聞・朝刊 2011.11.20
版権 日経新聞


<関連サイト>
冬の「ヒートショック」にご注意を
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2008/02/06



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