「ロタ」対応の新ワクチン

「お子さんを横抱きにしてくださいね」

東京都文京区にある細部小児科クリニックの診察室。
院長の細部千晴さんは、そう言うと、生後4か月の杉山未来(みく)ちゃんの口の中に、少しずつ薬液を落としていった。

この薬液は、激しい下痢や嘔吐(おうと)などを伴う「ロタウイルス腸炎」の予防ワクチン。
国内で11月に発売されたばかりの新しいワクチンだ。
自費で行う任意接種で、費用は1回1万5000円程度。
生後6週間から同6か月までに2回接種し、2回の接種は、4週間以上の間隔を空ける。

未来ちゃんの母親、真紀子さん(28)は「接種できるのは今しかなく、かかって重症化すると大変なので、受けさせることにしました」と話す。

ロタウイルス腸炎は、主に冬から春に流行し、5歳までにほぼ100%の子どもが感染する。

千葉市の会社員、B子さん(34)の長男(1)は今年2月、ロタウイルス腸炎に感染した。
預けていた保育所で嘔吐し、近くの診療所を受診して、診断された。

ロタウイルス腸炎の下痢は、便が白やクリーム色で、酸っぱい臭いがするのが特徴だ。
長男は、こうした水っぽい便が1週間、出続けた。1日平均10回程度。最初の頃は30分から1時間おきだった。

B子さんは「ミルクを飲んでくれなかったため、市販の経口補水液をこまめに与えるよう気をつけました」と振り返る。

ロタウイルス腸炎は、下痢や嘔吐を繰り返すため、脱水症状を起こしやすい。
また、けいれんや意識障害を併発することも少なくない。
重症化すると、脳症や脳炎を起こす恐れや、命にかかわる場合もある。

日本小児救急医学会理事長で、北九州市立八幡病院長の市川光太郎さんは「この病気に対する有効な治療法はなく、自然にウイルスが体外に排出されるのを待つしかない。しかし、ワクチンを接種することで、ロタウイルス腸炎に感染して小児救急にやってくる患者を減らすことができる」と期待を寄せる。

今回、発売されたワクチンは、病原体の毒性を弱めた「生ワクチン」だ。
来年には、別の生ワクチンも発売される見通しだ。

これらの予防ワクチンを接種しても100%感染を防げるわけではない。
だが、感染した場合も、重症化せずに軽くて済む。

市川さんは「ワクチンを接種しやすくするため、国には費用を助成するなどの対応をとってほしい」と訴えている。                 

出典 読売新聞 2011.12.7
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