福島の甲状腺がん 

増加ではなく「過剰診断」

福島では、甲状腺がんと診断される子供が増えている。

東京電力福島第1原子力発電所の事故当時18歳以下だったすべての県民に甲状腺検査を実施しており、これまでに200人を超える小児甲状腺がんが発見されている。

 

この検査は、チェルノブイリ原発の事故後に、約7千人の子供に甲状腺がんが見つかったことから始まった。

チェルノブイリでは、小児甲状腺がん以外には、小児、成人を問わず、いかなるがんの増加も確認されていない。

 

福島でもチェルノブイリと同じことが起きているという報道も見られるが、これは誤解だ。

 

県民健康調査検討委員会の評価部会も6月、「児甲状腺がんの多発と放射線被曝との関連は認められない」とする中間報告を公表している。

国際原子力機関や国連科学委員会なども同じ報告をしている。

 

チェルノブイリの場合、旧ソ連政府は事故を数日間、公表もせず、食品の規制も遅れた。

牧草に付着した放射性ヨウ素は牛乳に含まれる。

 

また、甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素は主に海草から摂取するから、内陸にあるチェルノブイリの子供たちは、慢性的なヨウ素不足だった。

その子供たちの目の前に、原発から放出された放射性ヨウ素が突然出現したのだ。

放射性であろうとなかろうと物質としての性質は変わらないから、子供たちの甲状腺に莫大な放射性ヨウ素が取り込まれてしまった。

 

就学前の子供の5%近くが甲状腺だけに限定して50000ミリシーベルト以上被爆した一方、被曝量が50ミリシーベルト以下はわずか0.2%に過ぎない。

 

福島の子供では99%が30ミリシーベルト以下ダから、チェルノブイリと福島では、甲状腺の被曝量が桁違いに違う。

 

福島では、もともと子供たちが持っていた「無害な」甲状腺がんを、精密な検査によって発見しているに過ぎない。

いわゆる「過剰診断」だ。

がんが増加しているのではなく、「発見」が増えているのだ。

 

今、韓国で同じようなことが起こっている。

韓国で一番多いがんは甲状腺がんで、女性のがんの4分の1を占め

るにいたった。

  

執筆 東京大学病院・中川恵一 准教授

 

甲状腺がん放射線被ばくに関する医学的知見を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146085.html

・これは、放射線業務従事者に発症した甲状腺がんの労災請求があったことを受け、業務が原因かどうかを判断するために、国際的な報告や疫学調査報告などを分析・検討し、まとめたものです。

甲状腺がんに関する個別文献では、甲状腺がんの発生が統計的に有意に増加する最小被ばく線量を示す文献はなかった。

 

甲状腺がんを含む全固形がんを対象としたUNSCEARなどの知見では、被ばく線量が100から200mSv以上において統計的に有意なリスクの上昇は認められるものの、がんリスクの推定に用いる疫学的研究方法はおよそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないとされている。

 

甲状腺がんに関する個別文献では、原発事故後5年目から9年目の期間以降で甲状腺がん発生リスクが有意に増加したとするものがある。

UNSCEAR などの知見では、全固形がんの最小潜伏期間について、5年から10年としている。

 

甲状腺がんは、放射線被ばく以外に、甲状腺刺激ホルモンのレベル上昇、多産、流産、人工閉経、ヨウ素摂取、食事がリスクファクターとなる可能性があると考えられている。

 

 当面の労災補償の考え方

甲状腺がんは、被ばく線量が100mSv以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まること。

放射線被ばくからがん発症までの期間が5年以上であること

放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。

 

原子力発電所等周辺の住民を対象とした疫学調査

チェルノブイリ原発事故当時、18 歳以下であったベラルーシの 11,664 人の子ども及び青年期にあった対象者は、1997-2008 年の間、3 回の甲状 腺検査を受けた。

その中で、発生した甲状腺がん甲状腺線量との関係 を検討した。

その結果、158 件の甲状腺がんの発生が認められ、I-131 による甲状腺 被ばく線量が高い方が、より悪性度の高い甲状腺がんが発生しているこ とが分かった。

潜伏期間については、線量との関係は認められなかった。

 

チェルノブイリの事故時に児童、もしくは青年期にあった 対象者グループに甲状腺がん発生率の増加が認められた。

また、40-49 歳 女性のグループでも影響が認められた(高被ばく地域の方が低被ばく地域より統計学的に有意に甲状腺がん発生率が高かったが、放射線との 因果関係を判断するには更なる検討が必要である。

 

・1989-2008 年にかけて、ウクライナ全住民の甲状腺がんの発生を、発生 年齢別、性別で、2 つの線量域(甲状腺への被ばく線量 35mGy を境に高被 ばく地域と低被ばく地域に分けた)に分けて分析した。

その結果、性別によらず、高被ばくグループの方が低被ばくグループ より統計学的に有意に甲状腺がん発生率が高く、その発生時期も早かっ た。

また、チェルノブイリ原発事故当時 0-4 歳のグループの方が、事故後(1987-1991 年)に生まれたグループに比べ、発生時年齢 10-14 歳、15-19 歳、20-24 歳の群で、甲状腺がんの発生率が高かった。