野菜・水・魚…、食品を介した内部被曝を考える

東京電力福島第1原子力発電所の事故で、周辺環境に放出された放射性物質は、野菜や水、原乳など口に入るものまで付着・混入した。
国も食品の暫定規制値を急きょ示した。
専門家は、放射性物質が体内に入れば内部被曝が起こるものの「規制値以下の食品なら心配することはない」と指摘する。

食べ物や水などの摂取については、国際放射線防護委員会(ICRP)の指針に基づいて厚生労働省が規制値を設けている。
放射性ヨウ素の場合は、飲料水と牛乳・乳製品が1キログラム当たり300ベクレル(乳児は100ベクレル)が上限。
野菜類や魚類は同2000ベクレルだ。
放射性セシウムは飲料水と牛乳・乳製品が200ベクレル、野菜と穀類、肉や卵、魚介類などが500ベクレル。いずれも欧米の基準より厳しい。

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年間50ミリシーベルト以下に
基準は、放射性ヨウ素を含む水を長期間摂取しても甲状腺という臓器が受ける放射線量が、1年当たり50ミリシーベルト以下になるように考慮している。
放射能の強さを示すのがベクレルで、人への影響を測る際に使う値がシーベルト。種類によって異なるが、1ベクレルのヨウ素セシウムが体内に入ると、約0.004~0.022マイクロ(マイクロは千分の1ミリ)シーベルト放射線を浴びる計算だ。

今回の事故では、ホウレン草や水などで基準を超える値が検出されたが、専門家は「たとえ食べたとしても健康被害がただちに生じるレベルではない」と口をそろえた。
将来、がんが発症する確率を大きく高めるとは考えられていないからだ。
国立がん研究センターは「飲食物の摂取制限の指標は、十分すぎるほど安全といえるレベル」だと訴えている。

放射性物質が体内に入ると、組織や器官の細胞が放射線の影響を受ける。
これが内部被曝だ。
放射線は体を通過して細胞のDNA(デオキシリボ核酸)を傷つけるため、体の表面から浴びる外部被曝でも内部被曝でも「放射線量が同じなら、特定臓器に対する危険度はほぼ同じ」と放射線の影響に詳しい丹羽太貫・京都大学名誉教授は話す。

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ただ、1986年のチェルノブイリ原発事故では周辺の子供で甲状腺がんが通常より多く発症した。
国の暫定基準値でも乳児の値が厳しいのはこれが理由だ。
日本人はチェルノブイリ周辺の内陸部に住む人たちに比べて、海藻などからヨウ素を多く体内に摂取するため、放射性ヨウ素が体内に入っても、それが甲状腺に取り込まれる割合は少ないという見方もある。

一方、放射性セシウム半減期は約30年と長いものもあり、粘土や有機物と強く結びつく性質を持つ。
政府は水田の土壌1キログラム当たり5000ベクレルを超えた場合は、コメの作付けを制限することとした。
セシウムは根から吸収され玄米にも移行するが、玄米のセシウム濃度は土壌の10分の1と見積もり、穀類の規制値である1キログラム当たり500ベクレルを超えないようにした。


1960年代の大気圏核実験で日本の土に降ったセシウムの追跡調査によると、土からコメへ移行する割合は低く、白米になると約1%まで減る。
村松康行・学習院大教授は「作付け制限値は、かなり余裕をもった数値」と話す。
セシウムは体内に入ると全身の筋肉などに蓄積されやすいが、約100日で半分が体外に排出されるという。


魚、移動で濃度変化
では魚介類ではどうだろうか。
チェルノブイリ事故で日本近海の魚が受けた影響について財団法人海洋生物環境研究所が調べたところ、セシウムでは「海水を直接測定した濃度上昇がピークとなった時期から、半年程度遅れて魚の体内の濃度は一番高くなっていた」(同研究所の御園生淳研究参与)という。
スズキでは約半年後に、最大値を記録した。
一般に小魚を食べる大型の魚のほうが放射性物質の濃度が上がりやすい。
海水の濃度は1年後には事故前の水準に戻ったが、体内の濃度が事故以前の水準に戻るには約1年半~2年かかった。

ただ魚は回遊性があり、「汚染海域に長期間とどまっているとは考えにくく、移動すれば体内の濃度も下がる」と御園生研究参与は指摘する。
政府は福島原発の事故を受けて、野菜などの規制値を魚介類にも適用したが、この値を下回って出荷された魚の安全性は高いとみてよいという。 
人体や日ごろ食べている野菜や肉にも、カリウム40といった自然界の放射性物質がわずかに含まれている。「見えない敵」である放射性物質は厄介で、長期的には不安も募る。
信頼できる研究機関などの情報に注意し、内容をしっかりと読み解くことが重要だ。
(長谷川章、西村絵)

出典 日経新聞・朝刊 2011.5.15
版権 日経新聞





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