こころの不調に漢方薬

こころの不調に漢方薬、処方例と注意点

5月は季節の変わり目であり、入学、就職、転勤などの疲れも出始めて、ストレスや不眠を訴える人が増える時期だ。
最近、こうした心の不調に対する漢方薬の効果が注目されている。
症状と処方例、服薬の注意点などにはどのようなものがあるだろうか。


3月に起きた東日本大震災以降、被害が大きかった東北地方以外でも心の不調を訴える人が増えている。
報告の多い症状は「地震酔い」で常に体が揺れているような感覚が消えず、強い不安感やめまいなどの症状をもたらす。

青山杵渕クリニック(東京都港区)の杵渕彰所長は「原因は、震災後に無意識に感じている不安で、これが自律神経の働きに異常をもたらしている」と話す。

地震酔いは、余震が減るなど環境が改善すれば、しだいに治まるため、精神疾患としての「不安障害」にはあたらないが、杵渕所長は患者の症状改善に漢方薬を用いてきた。

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処方は患者によって異なるが、不安や緊張が高まっているときには、体の水分代謝の低下や冷えを伴うことが多い。
心の安定とともに、これらを改善する働きのある漢方薬、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)などを用いることが多いという。


漢方薬を用いる理由は、おだやかな効果と副作用のリスクが比較的低いとされているからだ。
この症状の場合、西洋医学では抗不安薬をごく短期間用いる。
杵渕所長は「抗不安薬の効果は、不安感を無理に抑えつけるイメージに近く、眠気をもたらすこともある。漢方薬は、飲みつづけることによって、心の緊張がとけて楽になる」と話す。


最近では、こうした漢方薬の効果に注目する心療内科や精神科の医師が増えてきた。
日本東洋心身医学研究会などの学術団体も組織され、漢方薬の有効性などについて研究が進んできた。

例えば、地震などの災害後だけでなく、家族の病気や人間関係の悪化などが原因で、一時的に不安を感じたり気分が落ち込んだりすることは誰にでもあることだ。

不安障害に詳しい杏林大学保健学部の田島治教授は「不安自体は病気ではない。不安は、外敵や災害から身を守るために人類に備わった大切な感情のひとつ。日常生活に支障をきたすほど不安が強くなれば、向精神薬認知療法の対象となるが、それ以前の不安には、さまざまな段階がある」と話す。


最近では、こうした漢方薬の効果に注目する心療内科や精神科の医師が増えてきた。日本東洋心身医学研究会などの学術団体も組織され、漢方薬の有効性などについて研究が進んできた。

例えば、地震などの災害後だけでなく、家族の病気や人間関係の悪化などが原因で、一時的に不安を感じたり気分が落ち込んだりすることは誰にでもあることだ。

不安障害に詳しい杏林大学保健学部の田島治教授は「不安自体は病気ではない。不安は、外敵や災害から身を守るために人類に備わった大切な感情のひとつ。日常生活に支障をきたすほど不安が強くなれば、向精神薬認知療法の対象となるが、それ以前の不安には、さまざまな段階がある」と話す。

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つまり、心の領域の「未病」ともいえる症状から立ち直るのをサポートするのが漢方薬というわけだ。

日常のささいなことでイライラしたり、気分が高まって眠れなかったりする人に使われるのが抑肝散(よくかんさん)という漢方薬だ。
女性の更年期障害の症状のひとつとしての不眠には加味逍遙散(かみしょうようさん)などが用いられることもある。

また、精神的ストレスがもたらす症状はさまざまだが、常にストレスを感じ「疲れがとれない」「気力が低下してやる気がでない」という症状の場合には、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)など、いくつかの漢方薬が処方されることも多い。

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一般の人が漢方薬を利用する場合、漢方治療に積極的な心療内科医や精神科医を受診したり、漢方薬局の薬剤師に相談したりするといい。

また最近では、ドラッグストアなどで購入できる一般薬も増えているので、軽度の不調に漢方薬を試してみたいという人には便利だ。


効果には限界も
ただ、漢方薬は体質によっては効果が出にくい場合もある。
その場合は、やはり医師や薬剤師に相談することが、より自分に合った漢方を見つける早道だ。

また、心の不調に漢方薬を用いるときに、最も注意すべき点について、杵渕所長は、「作用がおだやかな漢方薬には限界もある。
精神疾患とはっきり診断がつくような、うつ病、不安障害、パニック障害統合失調症などの治療には明確な効果は期待できない。やはり西洋医学的な治療を第一とすべきだ」と話す。

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症状が改善しない場合は、漢方を過信せず、専門医のアドバイスを受けながら治療していくことが大切だ。 (ライター 荒川 直樹)


顆粒状は湯に溶かして
漢方薬は植物成分が多い。かつては専用の土瓶などで20~30分煎じてから飲むのが一般的だったが、現在、医療機関で処方される漢方薬のほとんどは煎じた液を乾燥させたエキス剤で、顆粒状だ。
薬局で購入できる一般薬には錠剤タイプも多い。これらを食前または食間に飲むのが原則だ。

このとき、顆粒状の漢方薬は湯飲みなどに入れて湯をそそぎ、よく溶かしてから飲んだ方が効果が高い。杵渕所長は「植物成分の多い漢方薬は、煎じた段階では分子量の大きな多糖類であることが多い。腸内細菌が多糖類を分解することで有効成分が体内に入る。飲む前によく溶かすことで有効成分が吸収されやすくなる」と話している。

[日経プラスワン2011年5月14日付]

出典 日経新聞 Web刊 2011.5.14 (一部改変)
版権 日経新聞