認知症と闘う 

Combating Dementia-認知症と闘う 増える認知症、世界の課題 

認知症は今、全世界で取り組むべき課題になっている。

発症する人が急増しており、社会的、経済的コストが膨らみ続けている。

研究者や製薬企業は治療方法の開発を急ぐが、思うように進んでいない。

発症する仕組みさえ十分に解明できておらず、有効な予防方法も見いだせていない。

今後、アジアを中心にさらに増え続ける見込みで、国を超えた連携が急務だ。

国際的な公衆衛生上の優先事項として、各国で協力して対処する必要がある。世界保健機関(WHO)は2017年12月、認知症の急増に警鐘を鳴らした。

 

国際アルツハイマー病協会の推計によると、15年時点で認知症の人は全世界で4680万人。

30年には7470万人、50年には1億3150万人と見込む。

 

地域別でみると、日本を含むアジア大洋州が最も多い。

15年時点で2290万人で、30年には1.7倍の3850万人、50年にさらに1.7倍の6720万人となり、世界の半分(51%)を占める。

 

欧州も15年は1050万人、30年は1340万人、50年に1870万人となると見込まれている。

 

人数では北米、中南米からなる米州が多くなる。

15年では940万人だが中南米を中心に増え続け、30年には1580万人と欧州を上回り、50年には2990万人で、15年の約3.2倍になるという。

 

アフリカは15年は400万人と少ないが、30年に700万人、50年に1580万人となり、15年の約4倍になる。

 

認知症が増えるのは高齢化だけではないようだ。

同協会は「所得が高い国に比べ、低、中所得の国での増加が著しい」と分析する。

 

厚生労働省研究班の推計によると、日本は15年に65歳以上のおよそ6人に1人(15.7%)の517万人が認知症で、全世界の1割を占める"認知症先進国"だ。

 

認知症の割合が一定のままならば、30年には744万人、50年には797万人に達し、5人に1人(21.8%)になり、誰もが関わる可能性のある身近な病気となる。

 

生活習慣病が発症率を高めるという報告もある。

九州大学が福岡県久山町で60歳以上の約千人を15年間追跡調査したところ、糖尿病の人は健康な人に比べ認知症になるリスクが2倍だった。

 

厚労省研究班は糖尿病の割合が増える場合も推計。

30年には認知症の人の割合が変わらない想定より86万人増えて830万人、50年には219万人増加して1016万人と1千万人を超えるとはじく。

 

国際アルツハイマー病協会は世界で認知症に要したコストは約8180億ドル(約86兆円)と推計する。

 

日本では厚労省研究班の推計でコストは合計14兆5千億円(14年)。

医療費は1兆9千億円(13%)だが、介護費が6兆4千億円(44%)、家族などの負担が6兆2千億円(43%)を占め、財政や生活を圧迫している。

 

治療薬は製薬企業が開発にしのぎを削っている。

しかし発症の仕組みや原因物質を特定できない中、思うように進んでいない。

一方で英国、オランダ、ドイツ、スウェーデン、米国では認知症の有病率や発症率が減少しているという報告もある。

どうすれば予防や治療ができるのかは手探り状態だ。

 

日本、そして各国が連携して認知症の解明を進め、予防法、治療法を見いだすだけでなく、それぞれの国で認知症の人や家族を支える社会的な仕組みづくりも急務になっている。

 

最も多いのはアルツハイマー

認知症は何らかの原因で脳の細胞の一部の働きが悪くなり、物事を認識する能力が十分でなくなる状態だ。

 

主な症状としては

(1)物事を覚えられなくなったり思い出せなくなったりする(記憶障害)

(2)時間や場所、人との関係が分からなくなる(見当識障害)

(3)考えるスピードが遅くなる(理解・判断力障害)

(4)計画や段取りを立てて行動ができない(実行機能障害)

――が挙げられる。

 

記憶障害は「もの忘れ」(健忘症)とは異なる。

例えば健忘症は前日に食べた食事の内容を忘れる状態だが、認知症は食事したことを思い出せない状態とされる。

ただ全てを認知できていないわけではなく、外出して自宅に戻らない徘徊などの行動は「本人なりの背景や理由を周囲に説明できないだけ」という見方もある。

 

こうした認知症は複数の原因で起きるが、大きく4つに分類される。

 

最も多いのは「アルツハイマー型」だ。アルツハイマー病を原因とし、脳内にアミロイドベータという異常なたんぱく質や、タウというたんぱく質の塊が蓄積するなどの特徴があり、脳が萎縮する。

日本では3分の2を占めるとみられている。

昔の出来事は覚えていても新しいことを記憶できなくなるなどの症状はゆっくりと進行し、時間や場所の感覚などもなくなっていく。

 

「脳血管性」は、脳梗塞脳出血で脳に十分な血液が届かず障害を受け、一部が機能しなくなる。

障害を受けた部位で症状が異なり、脳梗塞などが起きるたびに段階的に進行していく。

高血圧や糖尿病など生活習慣病が主な原因となり、日本では2割程度とされる。

 

「レビー小体型」は、パーキンソン病の患者の脳で発見された特殊なたんぱく質(レビー小体)がたまって脳の一部が働かなくなる。

脳はあまり萎縮せず記憶障害は軽いが、脳の中心部(脳幹)などに影響し、幻視や、手足の震えや筋肉が固まるなど行動に影響が出ることが多い。

 

「前頭側頭型」は、脳の前方(前頭葉)や側面部分(側頭葉)の神経細胞が減少して萎縮する。

理性など人間らしさをつかさどる前頭葉が萎縮すると、感情の抑制がきかなくなり、人格が変わったような変化が起きる。

 

レビー小体型や前頭側頭型は1割以下とされ、日本では以前は脳血管性が多かったが、近年はアルツハイマー型が増えている。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2018.3.12

 

<関連サイト>

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