手術痕から「リンパ漏」 カテーテルで完治も

手術痕から「リンパ漏」 カテーテルで負荷軽く完治も

手術などがきっかけで、リンパ管のなかを流れるリンパ液が体外へ漏れ出てしまう「リンパ漏」という病気がある。

日常生活で困るものの、放置したり、病院でも尿漏れなどと誤って診断されたりしている患者も多いという。

だが近年、カテーテルを使った新しい治療法などが広まり、治療効果は高いという。

思い当たる人はあきらめずに専門の医師に相談してみよう。

 

リンパ漏の症状に困っていても、実際に病院で治療している人は限られている。

リンパ漏とは、リンパ管が傷つくことで中を流れるリンパ液が体の外に漏れだす病気だ。

そけい部や腹部、首の周り、わきの下などに多くあるリンパ節が手術などで傷つくと、リンパ液が傷口などから出てきてしまう。

 

リンパ液は血管から漏れ出た血漿やタンパク質の成分からなる黄色の液体で、体にたまった余分な水分や老廃物などを運ぶ。

血液と並んで重要な液体だ。体内には2~3リットルのリンパ液が流れている。

リンパ漏になると、1日に漏れ出るリンパ液は500ミリリットルから2リットルぐらいと個人差が大きいが、生活に支障をきたす人も多い。

漏れ出るリンパ液量が多い場合、栄養状態、免疫状態が徐々に悪化していくリスクもある。

 

リンパ漏を起こす原因でもっとも多いのは手術だ。

特にがんの手術では、がんの転移を防ぐためにリンパ節を大きめに切除することは珍しくない。

このときにリンパ管が傷つきやすい。

症状もリンパ液の漏れ以外に、手術した部分の痛みや腫れ、圧迫感などさまざまだ。

体表にできた水疱に細菌が入り、発熱を繰り返すケースもある。

手術後の入院中であれば、気づきやすく再手術でリンパ漏を起こしているリンパ管の傷口を糸でしばって閉じる。

ただ、高齢者の場合、再手術は身体的な負担が大きい。

医師は目で見ながらリンパ液が漏れているリンパ管を探すため、見つけ出せず、漏れを十分に止められないこともあるという。

 

そこで注目されるのが、カテーテルを使ったリンパ漏治療法だ。

帝京大学病院で2013年から積極的に進め、これまでに140症例を実施している。

針を足の付け根のそけい部のリンパ節に刺し、造影剤を注入。リンパ漏を起こしている部位をX線で探し出す。

カテーテルを入れて、漏れを起こしている部位に金属コイルを置き、封入剤を注入して塞ぐ。

治療時間は1~2時間ほどだ。開胸や開腹をする従来法と比べて患者の負担が少ない。

日帰りできる場合もあり、術後はほぼ確実にリンパ漏が止まるという。

 

東京慈恵会医科大学病院では、手術後のリンパ漏患者には外科医が再手術をするのが一般的だった。

数年前からはカテーテル治療をする医師が対応している。

ほかの病院で手術を受けた患者の相談も始めており、15年からこれまでに50人を治療した。

「リンパ漏のために再手術を勧められたらカテーテル治療も選択肢のひとつと考えてほしい」と医師は話す。

もう一つ、正しく診断されないという課題もある。

病院への受診をためらったり、受診しても「性感染症」や「尿漏れ」と誤診されていたケースもあったという。

特に「骨盤内のリンパ節を切除手術後に多いのは陰部で起こるリンパ漏。

恥ずかしさから受診をためらう人が多い。

手術以外にも、数は少ないが生まれつきリンパ漏を患う人もいる。

特に陰部から漏れている場合などは、本人も周囲も尿漏れと勘違いして放置してしまうこともあるという。

ある40代女性は30年間おむつがかかせなかった。

陰部が腫れ、痛いが治らないとあきらめていた。

帝京大病院を受診し、リンパ漏と診断されてカテーテル治療をしたところ完全に治ったという。

 

ただ、まだリンパ漏の対応ができる病院は多くはない。

このため、JR東京総合病院帝京大病院は連携し、リンパ漏の原因部位にあわせ、互いに患者を紹介し合っている。

原因部位が体表に近い場合などは、JR東京総合病院が担当し、静脈とリンパ管をつなぐことでリンパ漏を治す「リンパ管静脈吻合術」をする。

体の深部や心臓近くの場合は帝京大病院に患者を紹介し、カテーテル治療を実施する。JR東京総合病院の医師は「患者の状態にあった方法で対応できる。一人で悩まず、相談してほしい」と話す。

 

医師間の認知度向上に課題

国内にいるリンパ漏患者の推定人数は不明だが、例えば、食道がんの手術後にリンパ漏を発症する頻度はおよそ3%との報告もある。

医師の間でもリンパ漏の認知度は高くない。

JR東京総合病院では「学会で発表しても知らない医師が多い。患者だけでなく、医療従事者にも知ってもらうことが大切だ」と強調する。

帝京大学では、リンパ漏をカテーテルで治療できる医師を増やすため、全国の医療機関に出向き、医師へのトレーニングを実施している。さらに「リンパ友の会」という研究会を設立。放射線科、小児科、形成外科で議論し、リンパ漏を含むリンパ疾患への啓発と連携を目指しているという。

リンパ漏の多くの治療は保険診療が可能だが、一部できないものもある。

リンパ漏を引き起こしているリンパ管を見つけ出すのに必要なリンパシンチグラフィー

は、2018年に保険適用され、受けやすくなった。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2020.10.19 

 

<関連サイト>

リンパ漏の症状が出やすい部分

https://aobazuku.wordpress.com/wp-admin/post.php?post=1585&action=edit