世界はウイルスでできている 物質が「寄生体」に変化 ① 1/2
原始の地球 実験で再現
地球上で最初のウイルスはどうやって出現したのか。
約40億年前の地球は、小さな物質があるだけのモノに満ちた世界だった。
そのモノが「非生命」から、遺伝情報を複製する「生命」へと一線を越えた。その瞬間を目撃した研究者がいる。
試験管の中で、モノにすぎなかった物質が寄生体へと驚きの進化を遂げた。
小さな水滴に幾つかの物質が漂う。
セ氏37度に加熱すると、物質の1つが周りの成分を引き寄せて自分の複製を作り始めた。
時々、複製のミスが生じ、「出来損ない」が生まれた。
どこかが壊れたのか複製ができなくなっていた。
消えて無くなると思いきや、しぶとく他の物質の複製反応を借りて数を増やした。
まるで寄生体だ。
「この寄生するタイプが、今のウイルスに進化したのではないか」。
東京大学の市橋伯一教授は、さらに実験の行方を見守った。
今度は寄生型の動きを阻む物質が現れた。
しばらくすると、その物質にさえ寄生できる新たな寄生型が登場し、イタチごっこで進化を続けた。
300世代以上の世代交代を繰り返した今も、寄生する側と寄生される側が試験管の中で攻防を続けている。
物質の1つは、現在のウイルスが使う遺伝物質「RNA(リボ核酸)」だ。
「感染の流行」を連想させる実験結果を目の当たりにした市橋教授は、寄生型が現在のウイルスに進化し、寄生される側が今の生命に変わったと考えている。
おそらく生命は後にDNAを作りだし、遺伝情報を正確に子孫へ伝えて体や心を複雑に制御できるようになったとみる。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2020.11.22