後遺症少なく、早期発見がカギ
脳の血管が詰まり、脳細胞が死んでしまう脳梗塞。
命が助かっても体のまひや言語障害などの後遺症が残り、日常生活に支障をきたす恐れがある病気だ。
だが近年は治療やリハビリが進歩し、発症しても元の生活を取り戻せるケースが増えている。
少しでも早く発症に気づき、治療を受けることが欠かせず、本人や家族が理解を深めることが重要になっている。
治療法進歩 後遺症防げることも
「こんなに元気になれるとは思わなかったです」。
今年4月、自宅で脳梗塞を発症し、九州医療センター(福岡市)で治療を受けた同市の女性(85)は笑顔で話した。
午前9時ごろ、居間で横になりテレビを見ていた時、同居する四女(40)が異変に気づいた。
目を閉じていて呼びかけにも応じない。
すぐに救急車を呼び、同センターに運び込まれた。
診断の結果は脳の太い血管が詰まる重度の脳梗塞。
すぐに手術が始まり、原因の血栓(血のかたまり)を除去できたおかげで後遺症も残らず、3週間後に退院できた。
その後はリハビリの必要もなく、好きな大相撲のテレビ中継を楽しめるようになった。
脳梗塞は動脈硬化などが原因で脳の血管が詰まって血液が供給されなくなり、運動まひや感覚障害などを引き起こす病気だ。
酸素不足や栄養不足の状態が続くと脳細胞が壊死し、命が助かっても後遺症が残る恐れがある。
厚生労働省の2019年人口動態調査では、国民の死因4位の「脳血管疾患」のうち約6割を脳梗塞(約
6万人)が占めた。
女性が受けたのは「血栓回収療法」と呼ばれる治療法だ。
カテーテルという細い管を、脚の付け根の動脈から脳に送り込み、血栓を吸引したり、からめ取ったりして除去し血流を再開させる。
担当した徳永聡医師によると、脳梗塞は効果的な治療法がないとされてきたが「ここ15年で劇的に状況が変わった」という。
まず05年に薬で血栓を溶かす「t-PA療法」が国内で認可された。
小さな血管にできた血栓を溶かすのに有効だが、時間がたってから使用すると出血のリスクが高まるため、発症から4時間半以内に限られている。
そこで登場したのが、10年に認可された血栓回収療法だ。
t-PA療法で溶かすのが難しい太い血管の血栓も除去でき、症状によっては発症後24時間まで治療できる。
徳永医師によると、血栓回収療法を受けた患者の5割程度は、軽度のまひが残ったとしても自立した生活を取り戻せているという。
治療法が大きく進歩する一方で、治療開始が早ければ早いほど回復が良い。時間との勝負だ。
発症から時間がたち脳細胞が一度死んでしまうと、元の状態に戻らないからだ。
カギを握るのは、いかに早く初期症状を把握し救急車を呼べるかだ。
「FAST」という合言葉を覚えたい。
「Face=顔のまひ(顔がゆがむ)」
「Arm=腕のまひ(腕に力が入らない)」
「Speech=言葉の障害(言葉が出にくい)」
「Time=急いで」救急車を呼ぶ。
がんに比べて脳卒中について理解している人は少ない。
例えば、脳卒中の1つであるくも膜下出血で起きる激しい頭痛は、脳梗塞ではあまり見られない。
一方で、顔のまひや言葉の障害などは、夜間だと様子見してしまいがちだ。後遺症が残り、介護が必要になれば、本人だけでなく家族も苦しめる。
リハビリでロボット活躍、歩行支援など
脳梗塞を含む脳卒中のリハビリの現場で最新機器の導入が進んでいる。
歩行リハビリに装着型ロボット「HAL」を活用している医療機関が増えている。
足を動かそうとする時に脳から神経に伝わる電位信号を皮膚表面に貼付したセンサーが捉え、ロボットの脚を動かして歩行をサポートする。
10㍍の歩行テストで時間が短縮したり、歩数が減ったりして劇的に回復する患者もいる。
HALは筑波大学発ベンチャーのサイバーダイン(茨城県つくば市)が開発。脳卒中患者への公的医療保険の適用を目指し治験が進められている(12月終了予定)。
歩行訓練を補助するホンダの「ホンダ歩行アシスト」やトヨタ自動車の「ウェルウォーク」なども登場。
リハビリ効果の向上が期待されている。
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2020.12.9
<関連サイト>
脳卒中の判断にはfast
https://aobazuku.wordpress.com/2020/12/15/脳卒中の判断にはfast/