世界はウイルスでできている 物質が「寄生体」に変化 ② 2/2

世界はウイルスでできている 物質が「寄生体」に変化 ② 2/2

埼玉大学の根本直人教授もRNAにウイルスの祖先の姿を見て取る。実験では複製ミスからRNAが幾つものタイプに分かれた。

単純なRNAから複雑な体を持つ生命ができたとする考えは「RNAワールド仮説」という。原始の地球でウイルスと生命が同時期に生まれ、ウイルスが生命に取り付くなどした結果、複雑な体を持つ生物の土台ができたというわけだ。

ウイルスと生命がRNAから生まれた確証は無いが、傍証はある。ウイルスに寄生する「サテライトRNA」や、植物に感染する「ウイロイド」だ。いずれもウイルス特有の殻を持たず、むき出しのRNAが本体だ。北海道大学の増田税教授は「どちらも原始のRNAの子孫ではないか」と話す。

紀元前の時代は、生命はモノから自然に生まれてくるとする「自然発生説」が注目された。ハエは肉からできると唱えても違和感は無かったはずだ。近代科学はモノと生命を明確に切り分けたが、生命のように遺伝情報を複製する寄生体が現れた今回の実験結果は、多くの人に驚きをもたらした。

今も新たなウイルスが生まれ続けている。東京農工大学麻布大学は2019年、日本のブタで2種類の異なるウイルスがゲノム(全遺伝情報)を組み換え、「新種」のウイルスに変わったことを突き止めた。新種はコロナウイルス科の「豚トロウイルス」とピコルナウイルス科の「豚エンテロウイルス」の特徴を併せ持つ。2つのウイルスは、イヌとネコほど違うという。全く違うウイルス同士が、同じ豚の細胞に感染して相互に組み変わった。

東京農工大の水谷哲也教授は「数百~数千年に1回の珍しい現象だ」と話す。長い目で見ると、ヒトに感染するウイルスが出現しても不思議はないと指摘する。「そうした未来の感染症を予測する研究も大学で進めている」と水谷教授は話す。

RNAワールド仮説に従えば、ウイルスとヒトの祖先はいずれもRNAという物質だ。太古の昔に生き別れたいわば兄弟同士であるにも関わらず、ウイルスは時にヒトの脅威となる。今を生きるほとんどの人にとって、2020年ほどウイルスの怖さを痛感した年はないだろう。

ウイルスは不思議な存在だ。最新の科学で謎が1つ解けたと思えても、手にできたのは疑問に対する答えではなく、新たな疑問であることが多い。ウイルスとは何か。真実に少しでも近づくため、まず

は20年に思いを巡らせた数々の物事を後世に伝えていくことが大切だ。

 

ウイルス 生命と共通点も

微小な構造体で、生命の細胞に感染して複製し、増える。

生命の最小単位とされる細胞を持たない。

自力で増殖できないために生命ではないとする意見がある一方、RNA(リボ核酸)やDNAで遺伝情報を複製することから、生命と共通点があるともいえる。

 

大部分は大きさが200ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下。

ヒトの細胞の平均的な大きさは20マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度だ。

 

ウイルスの構造は簡単な殼の中にRNAやDNAを収めただけのものが多い。丈夫な細胞膜や複雑な小器官を持つ細胞とは異なる。

ウイルスは病原体の印象が強いが、病気を起こさない種類がほとんどだ。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2020.11.22

 

<関連サイト>

ウイルスと生命の祖先は同じ?

https://aobazuku.wordpress.com/2020/12/17/ウイルスと生命の祖先は同じ?/