検診受診率が映す社会格差

検診受診率が映す社会格差

社会に横たわる格差は、新型コロナ感染症でも、がんでも、死亡数を増やす。

 

所得や教育面での弱者にがん死亡が多いのは、喫煙をはじめとする生活習慣の乱れが大きな原因だ。がんの早期発見のカギは定期的ながん検診だが、社会的弱者では、受診率が低いことも大きな問題だ。

 

がん検診の受診率と加入する健康保険との関係を調べた研究によると、検診受診率は、保険の種類によって3倍以上の開きがあることが分かった。

 

国家公務員や地方公務員は共済組合に、大企業の社員は健康保険組合に、中小企業の社員は協会けんぽに、自営業者やパートの従業員は国民健康保険に、主に加入している。

 

共済組合の加入者の受診率が最も高く、たとえば大腸がん検診については、男性では48%だった。

 

一方、健保組合では38%、協会けんぽでは27%、市町村の国保では19%、生活保護受給者や無保険者らでは13%と低くなっていた。

胃がん、肺がん、乳がん、子宮がんでも同様の傾向が認められた。

 

6月、日本癌治療学会が発行する学術誌に、企業規模と肺がん検診受診との関連を分析した論文が掲載された。

 

論文によると、肺がん検診の受診率は企業規模が小さくなるほど低くなった。

男性の正社員の場合、中規模企業の検診受診率を1とすると、大規模企業は1.33と高く、逆に小規模企業は0.8と低くなった。

 

非正規社員でも、正社員と同じ傾向があったが、会社の規模にかかわらず、受診率は非正規社員の方が低くなる傾向だった。

 

この結果から個人の健康意識よりも、企業規模や就業形態といった個人をとりまく環境の方が検診受診行動に関連していることがわかる。

 

企業規模や正社員、非正規社員による受診率の格差をなくすための行政施策や普及啓発の必要性が示されたと言える。

 

執筆

東京大学病院・中川恵一 准教授

 

参考・引用一部改変

日経新聞・夕刊 2020.8.26