新型コロナウイルスのワクチン リスクと効果、見極めて

新型コロナウイルスのワクチン リスクと効果、見極めて

新型コロナウイルスのワクチンを巡るこれまでの発表データを見る限り、発症予防効果は高い。

原理的には免疫反応が強いほど副作用も強くなる。

全身の倦怠感や疲労感などは既存のワクチンよりやや発生頻度は高いものの、現段階で命にかかわる副作用が出ていないのは安心材料だ。

 

1年以内に開発されたといっても、使われているメッセンジヤーRNA(mRNA)ワクチン」の技術は10年近く地道な基礎的な研究を積み重ねてきた。

画期的な発明である可能性が高く、驚嘆に値する。

 

考えられる副作用は大きく分けて3つある。

まず、接種後すぐの強いアレルギー反応(アナフィラキシー)だ。

ファイザーのワクチンでは20万回に1回程度出ている。

既存のワクチン(100万回に1回程度)よりやや頻度は高い。

接種会場にアレルギー反応を抑えるエピネフリン注射を準備し、医師に周知しておく必

要がある。

 

2点目は接種から2~4週間後に出る神経障害が考えられる。

ただ、接種後2ヵ月以上経過観察した論文でこうした報告はなく、データをみる限りあまり心配なさそうだ。

 

3点目は接種後に感染するとかえって症状が重くなる抗体依存性感染増強(ADE)だ。

重症急性呼吸器症候群(SARDS)や中東呼吸器症候群(MERS)のワクチン開発で報告された現象で「悪い抗体」ができたことが原因とみられる。

 

これまで欧米ではワクチン接種者がコロナに感染している例があるが、あきらかなADEの例は報告されていない。

現在、欧米で接種がさらに進んでいることから、日本にワクチンが来るころまでにはADEのリスクを判断するのに十分な接種回数に達するだろう。

そのデータを確認したい。

 

どんなワクチンでも副作用のリスクが全くないことはあり得ない。

私たちは自動車や飛行機など、ある程度リスクがあっても必要なものは、無意識に受け入れている。

ワクチンも副作用のリスクと、発症予防効果のベネフィットを見極めることが大事だ。

私は現時点では接種に前向きだ。

(阪大免疫学フロンティア研究センター 宮坂昌之 招聘教授)

日経新聞・朝刊 2021.2.4