国産ワクチン開発を支援 政府がアジアに治験網 中長期の供給、整備急ぐ
政府は国内のワクチン開発を担う製薬会社や研究機関の支援に乗り出す。
アジアに臨床研究と治験のネットワークを構築し、開発費用も一部負担する。
新型コロナウイルス対応ではワクチンの海外依存による接種の遅れが指摘されている。
中長期的な供給体制の整備を急ぐ。
政府は2月14日に米ファイザー製の新型コロナワクチンを国内で初めて薬事承認し、同月17日から医療従事者向けの先行接種を始めた。
3月9日時点で累計10万7500回ほど接種した。
4月からは高齢者向けの接種を始める予定だ。
政府は米モデルナ、英アストラゼネカをあわせた計3社と3億1千万回分の供給契約を結び、今年前半までに全国民に必要な量の確保を目指す。
ただ、ワクチンを生産する欧州連合(EU)の輸出承認が出荷のたびに必要で、各国が早期のワクチン確保へ動くなか、先行きに懸念が出ている。
ワクチン担当の河野太郎規制改革相は5日の記者会見で「1便ずつ承認が必要な状況だ。日本向けのワクチンをしっかり確保していきたい」と説明した。
政府はワクチンを海外調達に依存してきた体制が新型コロナ対応でも早期確保を妨げる要因とみて、国産ワクチン開発への投資を進める。
1月末に成立した2020年度第3次補正予算に、ワクチンや治療薬の開発費として1600億円を計上した。
柱はアジア各国との連携と、開発に取り組む企業や研究機関への支援だ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)など人口増加が進むアジアの新興国に専門家を派遣し、臨床研究基盤を構築する。
医療従事者に教育したり、検査や診断機器、フリーザーなどの設備を導入したりする。
国際共同研究の環境が整えばワクチン開発までの時間を短縮できる可能性が高い。
ワクチンの治験には大きな市場が必要で、後に販路としても見込める。
新型コロナに限らず将来の感染症に備えワクチン研究を加速させる狙いがある。
開発の最終段階で実施する数万人規模の治験は、専門業者への委託費やワクチンの輸送費を補助する仕組みを検討する。
現行法は海外での治験も可能で、現地の医療機関と連携した取り組みも対象とする。
菅首相は2月の衆院予算委員会で「予期せぬ感染症の治療薬を開発・生産できる体制の確立は極めて
重要な危機管理だ」との認識を示した。
国内企業向けに「徹底した支援が必要だと痛感している」と強調した。
政府の新型コロナ分科会の尾身茂会長は「日本のワクチン業界が欧米の非常に競争力の強いものに対し、少しスケールメリットが(小さい)ということだと思う」と述べている。
感染症対策の決め手となるワクチンは世界的な市場の拡大が見込まれる一方、参入障壁の高い医薬品だ。米ファイザーや米メルクなど米欧の大手4社で市場の8割を占める。
季節性のインフルエンザなど国内で流通するものも輸入品が多い。
日本も高度経済成長期までは「ワクチン先進国」といわれた。
研究開始から実用化に時間を要することや人口減少で投資が縮小していった。
3種混合ワクチン(MMRワクチン)や子宮頸がんワクチンによる健康被害の訴訟も一因になった。
需要が安定した予防接種用の既存ワクチンの製造だけを担う「護送船団方式」が定着し、国際競争力の低下を引き起こしたといわれている。
新型コロナで国産ワクチンの治験段階に入っているのはシオノギ製薬と創薬ベンチャーの「アンジェス」に限られる。
第一三共とKMバイオロジクスも3月をめどに治験に入る予定だが、開発に取り組んでいるのはごくわずかだ。
与党からも国産ワクチンの開発に力を入れるべきだとの指摘がある。
自民党の社会保障制度調査会は4日、創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム(PT)を開いた。
国産ワクチンの開発の遅れを安全保障の視点から懸念する意見などが出た。
感染症が専門の国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は「日本はワクチンへの準備をしてこなかった。多額の投資をすれば必ず成功するものでもないからだ」と指摘する。
世界ではワクチンが外交手段にもなりつつある。
米欧に加え中国やロシア、インドも自国産ワクチンの開発に力を入れる。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.3.11
<関連サイト>
国内でのワクチン供給を巡る現状
https://aobazuku.wordpress.com/2021/03/25/国内でのワクチン供給を巡る現状/