ワクチン、変異型への対応急ぐ 「南ア型」世界が危惧
新型コロナウイルスの感染拡大の抑制に向けて、変異型の対応が焦点になってきた。
変異により現在接種が始まったワクチンの効果が弱まる可能性があるからだ。緊急事態宣言を延長する日本も変異型への警戒を強める。
製薬各社は変異型に対応したワクチンの開発を急ぐが、感染の拡大を抑制できるか確証はまだ得られていない。
変異型はこれまでに英国型と南アフリカ型、ブラジル型、米国型などが見つかっている。
中でも最も感染力が高いとされるのが南ア型だ。
この変異型はワクチンの有効性を弱める可能性がある。
英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルは「感染力も高く、さらにウイルスが体の免疫防御をすり抜ける変異を持っている」と報告した。
新たなワクチンの開発や追加投与による対応が必要だとしている。
変異型の感染力を裏付けるデータも出始めている。
米ノババックスのワクチンは英国での有効性が89.3%だったのに対し、変異ウイルスが流行する南アでは60%だった。
米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のワクチンも米国での有効性は72%だったが、南アでは57%だった。
南ア型の流行前に治験を終えた米モデルナや米ファイザーなどのワクチンも、南ア型では防御効果が下がるとの実験結果が出ている。
英オックスフォード大学と英アストラゼネカが開発したワクチンも、南ア型には効果が低いという研究報告が出た。
緊急使用許可を出した世界保健機関(WHO)は一定の効果はあるとして使用を推奨するものの、南ア政府は購入済みの同ワクチンを使用しない方針を決めた。
国内でも変異型の脅威はすでに迫っている。
神戸市は3月1日、1月下旬~2月に36検体で変異型が見つかったと発表した。うち英国型が31検体で、南ア型とよく似た変異が入ったウイルスが5検体あった。
製薬各社は変異ウイルスに対応したワクチンの開発を急ぐ。
モデルナは感染力が強いとされる南アフリカ型の変異ウイルスに対抗する新しいワクチンを開発した。
米国立衛生研究所(NIH)向けに新しいワクチンを供給して数週間以内に第1段階の治験が始まる見通しだ。
既存のワクチンと組み合わせて接種し、変異型に効果があるかどうか確かめる。治験の期間が短くなれば、短期間で変異型に対応したワクチンが実用化できる可能性がある。
同社のステファン・バンセルCEOは「我々はパンデミック(世界的大流行)が収まるまでワクチンの更新を続けていく」との声明を発表した。
今後も新たな変異型にも対応していく姿勢をみせる。
ファイザーと独ビオンテックは2月25日、2回接種とされている現行ワクチンについて3回目を追加接種する治験を始めると発表した。
3回目を接種することで、予防効果がより高まることを期待している。
南ア型に特化した新ワクチンの治験も米食品医薬品局(FDA)と協議している。
新たな変異ウイルスが出ても6週間あればワクチンの製造までこぎつけられる。
アストラゼネカも南ア型に対応した新ワクチン開発に取り組む姿勢で、今秋までに生産を始める計画だ。
英グラクソ・スミスクラインと独キュアバックは、1つのワクチンで複数のウイルス変異に対応できる次世代ワクチンを開発する方針で、2022年の実用化を目指す。
国産ワクチンの開発は遅れており、変異型への対応は進んでいない。
ただ新ワクチンができても、別の変異ウイルスが登場し、効果に疑義が生じるいたちごっこに陥る可能性もある。
それでも「ウイルスの循環を減らすためにできる限りのことをする」(WHOのテドロス事務局長)しかない。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.3.5
<関連サイト>
変異株に対応したワクチンの開発