ワクチン接種で集団免疫 変異ウイルスで再流行も

ワクチン接種で集団免疫 変異ウイルスで再流行も

新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が先行する国がロックダウン(都市封鎖)を緩和する動きが相次いでいる。

イスラエルは2月21日に緩和を実施し、英国も3月8日から段階的な緩和に踏み切った。

判断を後押しするのが、これらの国で進む大規模なワクチン接種だ。

ワクチン接種が進んで流行の拡大が起こりにくくなった状態は「集団免疫」と呼ばれる。

ただ完全に流行が収まるわけではなく、変異したウイルスの出現で再び流行が広がる恐れもある。

 

イスラエルでは、同国保健省の発表によると3月22日時点で国民の半数以上が少なくとも1回の接種を終えた。

英政府によれば、英国でも20日の時点で国民の約4割が1回目の接種を終えている。

理論的には、ある地域のなかでワクチンの接種を受けた人が一定以上の割合になると、その地域では流行の拡大が収まる。

ウイルスが人から人へと感染を広げようとしても、相手がワクチン接種者であれば体内で増殖ができず、感染の連鎖がそこで絶たれるためだ。

この状態は「集団免疫」と呼ばれる。

 

どれだけの割合の人が接種を受ければ集団免疫の状態になるかは、何も対策をしていない状況でウイルスが1人の感染者から何人に感染させる能力を持つのかを示す「基本再生産数」や、流行状況の数理モデルから算出できる。

新型コロナの基本再生産数は2~3とされ、たとえば基本再生産数を2.5と仮定した場合、人口の6割がワクチンを接種すれば集団免疫の状態になると計算できる。

こうした集団免疫のしきい値には、実際に接種するワクチンの有効率の違いも影響する。

 

ただ、ある地域が集団免疫の条件を満たしても、即座に流行がやむわけではない。

接種が進んでも依然として免疫を持っていない人はいて、免疫を持たない人の間で感染の連鎖が続くためだ。

ワクチン接種を受けた人が高齢者に偏っていたり、地域ごとに接種の進み具合が著しく違ったりするとその影響は大きくなる。

国全体では接種済みの人の人数が集団免疫のしきい値を上回っていても、若者の間や特定の地域で流行が続く可能性がある。

さらに、地域内で一度感染の連鎖がやんでも、人の移動によって外からウイルスが持ち込まれると、再び流行が起こる場合もある。

 

集団免疫の成立には、新型コロナに対する免疫がどの程度持続するのかも影響する。

例えば、はしかではワクチン接種や実際の感染によって得た免疫が生涯持続するとされるが、インフルエンザをはじめとした喉や肺などの呼吸器官に感染するウイルスでは、一般的に免疫の持続期間は数年程度とされる。

 

新型コロナのワクチンで免疫がどの程度続くかは、実際に接種から半年や1年といった時間がたたなければ結論が出ない。

現在のところは、米モデルナが3カ月後も十分な免疫が維持されていることを確認するなど、数カ月レベルの報告が出始めた段階だ。

 

また、集団免疫の状態に至っても二度と流行が起こらないことが保証されるわけではない。

ブラジル北部の都市マナウスでは、2020年の6~8月に大規模な流行が発生した。この流行で住民の抗体保有率が約7割となり集団免疫の状態に至ったとする見方があったが、年末から再び流行が拡大した。

前回の流行から半年以上が経過して一部の人で免疫が弱まった可能性があるほか、変異ウイルスの影響も考えられている。

実際に、マナウスでは日本の空港検疫で見つかった「ブラジル型」の変異ウイルスの流行が確認されており、このウイルスは免疫を回避する変異を持つとみられている。

 

ウイルスへの感染やワクチンで一度獲得した免疫が消失する場合には、新規感染者数はゼロにはならず、小規模な増加と減少を繰り返しながら一定規模の流行が続くことになる。

しかし、仮に流行を完全に防げなくても、ワクチンには意義がある。

こうした状況は毎年流行するインフルエンザに近い。

ワクチンによって重症化を防ぐことができれば、医療機関に負荷がかかりにくくなり、流行が社会に与える影響を小さくすることができる。

 

3月8日には米疾病対策センター(CDC)がワクチン接種者はマスクをせずに他人の家を訪問してよいとする指針を発表した。

しかし、ワクチンの接種によってどのように元の日常を取り戻していくかは、まだ手探りの段階だ。

接種が進んでも従来の感染対策をすぐに取りやめるのではなく、しばらくは両者を組み合わせ、流行をなるべく小規模なものに留める工夫が必要になる。

 

<予防接種>

健康な人に病原体の一部などを接種して、本人を病気から守ったり病気の流行を防ぐための医療行為。

日本では平時から流行を抑えるための「定期接種」と緊急の必要がある場合の「臨時接種」があり、新型コロナのワクチンは後者だ。

定期接種は、大勢が接種して病気の流行を防ぎ、集団免疫の状態を作ることを目指す「A類疾病」と、個人の健康を守る「B類疾病」にわかれる。

A類にはポリオやジフテリアなどが含まれ、B類には高齢者が接種する季節性インフルエンザがある。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.3.26

 

<関連サイト>

ワクチン接種で集団免疫獲得へ

https://aobazuku.wordpress.com/2021/03/29/ワクチン接種で集団免疫獲得へ/