はしか予防

はしか予防のジレンマ

今年80人感染、昨年の2倍 ワクチン普及で患者減 接種「はざま世代」生む
はしか(麻疹)の感染が止まらない。
今年(2016年)に入ってから(9月)7日までに報告された患者は82人に達し、すでに昨年の2倍を超えた。
有効なワクチンがあるにもかかわらず、なぜ感染が続くのだろうか。
 
9月に入ってから、新たに41人の患者が報告された。
これまでに関西国際空港兵庫県尼崎市、千葉県で多数の患者が発生。
大阪府関空の従業員にワクチンを接種するなど対策に乗り出した。

20~30代が多数
麻疹は妊娠中の女性が感染すると早産や死産などを起こすことがあるため、日本産婦人科医会は9日、妊娠中の人やその家族は感染者が多く発生した場所に行かないよう呼びかけた。
 
麻疹は以前は子どもの病気だったが、現在は20~30代の大人の患者が多数を占める。
ワクチンの普及によって患者が激減し自然感染の機会が減る一方で、ワクチン接種の機会が十分でなかった世代だ。
 
1950年代、麻疹は誰もが一度はかかる病気だった。
大半は1週間ほどで回復するが、約3割で肺炎などの合併症が起き、年間数千人が死亡した。
だが66年にワクチン接種が始まり、78年に公費での接種が認められると、学校などでの集団接種が普及。患者は目に見えて減っていった。

ただワクチンでつけた免疫は、時間とともに低下する。
患者が多かった時代は生活の中で麻疹ウイルスに触れ免疫が増強されたが、ワクチンが行き渡って患者が減ると、その機会も減る。
そこで2006年から、小学校入学前に2回目のワクチン接種をし免疫を増強するようになった。
 
だがそれ以前に小学校に入った人は、1回しか接種していない。
07年、この世代の10~20代の若者の間で麻疹が大流行し、大学などが相次いで休校する騒ぎになった。事態を重く見た政府は08年から5年間、90年5月以降に生まれた人を対象に、中学3年か高校3年のときに2回目の接種を受けられる措置を講じた。
この世代は現在、最高26歳になっている。
 
一方、40代以上の世代は麻疹がまん延していた時代に幼少期を過ごし、麻疹への免疫を持つ人が多い。
2つの世代のはざま、つまり麻疹患者が激減してから生まれ、ワクチンを1回しか受ける機会がなかったか、あるいは2回目の追加接種を受けなかった20~30代を中心に、感染が広がっているとみられる。
 
かつてワクチン接種は国民の義務とされていた。
皆が接種して病気を減らし、ワクチンを打てない乳児や病人を含めた社会全体を守るためだ。
だが70年代から、様々なワクチンによって深刻な後遺症が残ったと訴える訴訟が頻発。
司法は、副反応を避けるための予診が十分に行えない集団接種という施策に過失があったと判断した。
 
これを受け、国は94年にワクチン政策を転換した。
接種は義務ではなく、国民への情報提供によって勧奨するものになった。
集団接種ではなく保護者が子どもを病院に連れて行って受けさせるのが中心になった。
ワクチンは個人の選択で、保護者の判断で受けないこともできる。

国内は排除状態
だがワクチンが奏功して病気が減ると、接種の動機は薄くなる。
仮に周りが全員接種していれば、接種しなくても感染の危険は低い。
だがそうしてワクチンに「ただ乗り」する人が増えると、結果的に集団感染のリスクは高まる。
 
今はワクチンの必要性を理解している親が多く、接種率が高く維持されている。1
15年3月、世界保健機関(WHO)は、日本は土着の麻疹ウイルスがない「排除状態」になったと認定した。
現在流行しているのは、中国や東南アジアなどに渡航した人によって持ち込まれたとみられる。
 
ワクチンが普及して一番怖い副作用は、皆が感染症の怖さやリアリティーを感じなくなることだ。
普及すればするほど、その必要性が見えにくくなる。
ワクチンは本質的にそうしたジレンマを抱えており、その中でどのように接種率を維持するかが課題となっている。

 
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参考
日経新聞・朝刊 2016.9.16