まばたき、脳に休息効果

まばたき 映像に句読点、脳をリセット

人間は1分間に平均20回まばたきをする。
目を潤すためだけなら1分間に3回で十分と約90年前に判明している。
なぜこんなに多くまばたきをするのか。
長年なぞだったが、その理由が最近の研究で次第に明らかになってきた。
 
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「脳と関わっているのでは」と考えたのは、大阪大の研究グループ。
被験者にコメディー番組(「Mr.ビーン」)を見せると、主人公が車を止めた瞬間や車のドアを閉めた瞬間で一斉にまばたきした。
海中を魚が泳ぐ物語性のない映像ではそろわなかった。
私たちは無意識に、動作の区切り目を見つけ、まばたきしていると考えられた。
 
その時の脳の活動をみると、まばたきの瞬間、考え事をする際に働く領域の活動が上がり、注意を払う際に働く領域の活動が下がった。
目に入る映像にまばたきで句読点を打つことで、情報を記憶し、注意力をリセットして次の映像に備えている。
つまり、集中を持続するため、一時的に脳を休ませる効果があると考えられる。
 
まばたきは「伝染」することもわかってきた。
 
TVドラマの演説シーンを視聴者に見せると、主人公が話の区切り目でまばたきした時、視聴者も引き込まれてまばたきしていた。
私たちは対面して話す時、無意識のうちに情報を共有して、互いの理解を深めているのではないかと推測される。
同じ実験を、対人関係を築くのが苦手な自閉症スペクトラム障害の患者18人にすると、このような現象は起きなかった。
 
「伝染」は寄席(よせ)の場でも起こることがわかっている。
東京大学の研究グループは古典落語の映像を、視聴者が一緒の部屋にいる場合と、一人ずつ別の部屋にいる場合の二つに分けて見せた。
その結果、全員で見た方が、1人で見るよりまばたきのタイミングのずれが半分に減っていた。
他人の笑い声や体の揺れが影響しているようだ。
一人が複数役を演じる落語は筋を追うのが簡単ではない。
同じタイミングでのまばたきを話の理解に役立てている可能性がある。
寄席はみんなで見た方が理解しやすく面白いのかもしれない。

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まばたきが、コミュニケーションの手段として発達した可能性を指摘する研究もある。
京都大霊長類研究所などが71種141匹の霊長類を調べると、群れの規模が大きくなるほど、まばたきの回数が増える傾向があった。
「天敵を警戒する必要が薄れ、まばたきが可能になり、仲間との意思疎通に使ったのか」と研究グループは推測している。
 
一方、まばたきが多い候補者は米大統領選に負ける・・・。
こう分析するのは米国の研究グループ。
あまりに多いと視聴者に心の弱さや落ち着きのなさなどネガティブな印象を与える。
まばたきはその人の不安や緊張の指標になるという。
 
大統領選のカギを握るのはテレビ討論会。
候補者の直接対決の様子が全米に放映される。
1960年以降の討論会の映像を調べると、9回中8回でまばたきが多い候補が落選していた。
2008年は、オバマ氏に負けた候補者は1分間に100回を超えていた。
 
では今回の大統領選は。
最近の演説を調べると、共和党のトランプ氏が1分間に64回、民主党のヒラリー氏が40回だった。
ただ、まばたきの回数を減らす特訓を受けて討論会に挑む候補もいるそうだ。
11月の投開票に向け、まばたきと勝敗の行方も注目される。

「目は心の窓」と言うが、まばたきが脳の状態と関係していることは意外だ。
まばたきは乳幼児では1分間に2~3回といい、成長に連れて増えるのも不思議だ。
ちなみに、まばたきは脳を休ませる効果があるが、わざとまばたきしても効果はない。

 
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参考
朝日新聞・朝刊 2016.9.10