今年のインフルエンザワクチン

インフルウイルス、先手の対策

ワクチン改良 対応種広がる 負担増、接種控えに懸念
今年もインフルエンザの流行シーズンがまもなくやってくる。すでに予防接種を済ました人もいるだろう。ワクチンに含まれているウイルスの種類はこれまでは3種類だったが、今シーズンから4種類に増えた。さまざまなタイプのウイルスに対応できるようにしたためだ。それでも、まったく感染しないというわけではない。特に、体力が低下気味の高齢者などは油断しないことが大切だ。
インフルエンザ患者の発生状況は、全国約5000カ所の医療機関から国立感染症研究所に報告される。
厚生労働省の発表では、今年は11月9~15日の週は1機関あたりのインフルエンザの報告数は0.14人にとどまり、流行とは判断されていない。
日本では例年、11月下旬から12月上旬にインフルエンザの流行が始まり、1~3月ごろにピークを迎えて、4~5月ごろにかけて患者数が減る。
 
インフルエンザウイルスの種類はA型、B型、C型に大別され、A型とB型が大きな流行をもたらす。
ウイルスの感染力は強く、くしゃみやせきの飛沫から感染するほか、感染者が触れたつり革やドアノブなどに接触してうつる例も多い。
日本では毎年約1000万人が感染するといわれる。
 
ウイルスはさらに細かく種類が分かれており、近年、A型はH1N1とH3N2(A香港型)が流行をもたらしている。
B型は遺伝子の系統で呼ばれ、たとえば山形県で最初に見つかったタイプに山形系統という名前が付いている。

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従来のワクチンはA型の2つに加え、B型の山形系統とビクトリア系統のいずれか一方を選び、計3種類に対応するワクチンを製造していた。
製造に使う種類はその年の流行を予測して3月下旬までに決める。
しかし、この3年ほどはB型の両系統が流行し、ワクチンの効果が不十分だった。
 
そこでB型の2系統とも含む4種類に対応した「4価」のワクチンが作られることになった。
厚労省は新ワクチンの臨床試験(治験)を進め、子どもを中心に安全性や有効性を確かめた結果、今シーズンから4種類に対応するよう変更された。
実際の効果は、シーズンが終わってからでないと分からないが、専門家らは「カバー範囲が広がり、感染しても重症化を防げる」と期待する。
 
インフルエンザにかかると、セ氏38度以上の発熱や頭痛、関節痛や筋肉痛なども現れる。

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軽い症状で回復すればよいが、重症化すると子どもが急性脳症を発症することもある。
高齢者や糖尿病などの持病がある人、病原体から身を守る免疫の力が低下した人は、引き続いて肺炎などになる例も多い。
いずれも命に関わる恐れがある。
ワクチン接種によって、症状をある程度軽減したり、重症になるのを抑えたりする効果が期待できる。
 
4種類に対応するワクチンへの切り替えに伴う懸念材料もある。
メーカーの製造コストも上がったため、接種を受ける人の自己負担も増えるケースが出ていることだ。
専門家は負担増を嫌って接種を控える人が増えるのを心配している。
 
国の健康保険が使えないインフルエンザワクチンの接種費用は医療機関によって異なる。数千円程度だが、昨年より500~1000円程度値上げしたところが多いようだ。500円でも子どもは2回接種するため、計1000円増になる。
高齢者向けに自治体が接種費用を助成している場合も同様だ。
 
また、接種しても感染そのものを完全に防ぐことはできない。
「だったら受けなくても同じではないか」という思いと相まって、高齢者らの「接種控え」が増えることも考えられる。
 
感染予防のため、日ごろから手洗いやうがいに努めたい。
かかった場合は、早めに医療機関を受診し安静にするとともに、マスク着用で感染を広げない心配りなども重要だ。

<インフルエンザの基礎知識>
●予防・対策の基本
・外出後はせっけんを使い手をよく洗う
・外出後、水道水でうがいをする
・ワクチンを接種する
・流行期には人混みを避ける。せきやくしゃみをする人から遠ざかる
・十分な睡眠や栄養バランスの良い食事を心がける
・せきやくしゃみの症状がある時にはマスクを付けたり、人がいない方へする

●症状
・突然の高熱(通常は38度以上)や頭痛、全身の倦怠感
・筋肉や関節の痛みなど全身の症状が現れる。続いてせきや鼻水など。多くは1週間程度で回復する

●重症化のサイン
【子ども】
・けいれんを起こす。呼びかけにこたえない
・呼吸が速い、苦しそう
・顔色が悪い(青白)
・嘔吐や下痢が続く 
・症状が長引いて悪化してきた

【大人】
・呼吸困難、または息切れがある
・胸の痛みが続く
・嘔吐や下痢が続く
・症状が長引いて悪化してきた

●ワクチンについて
・ワクチンを接種しても感染することはある。重症化を防ぐのが目的
・効果が出るのは接種(13歳未満は2回接種)してから約2週間後以降
・毎年接種する必要がある

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出典
日経新聞・朝刊 2015.11.22(一部改変)