副鼻腔の異変 「ニオイがしない」

副鼻腔の異変 喫煙者に多く 「ニオイがしない」と感じたら・・・

風呂に入れたゆずの香り、コーヒーの味わい・・・。
ときに生活を豊かにしてくれ、ときに危険を察知するアンテナの役割にもなるニオイの感覚「嗅覚」は、副鼻腔炎や末梢神経障害など、思わぬ病気で損なわれることがある。
基礎知識を知って、健康な嗅覚を守ろう。

私たちの鼻の孔の奥には鼻腔という空間が広がっている。
吸った空気の中の異物を取り除き、適度な温度と湿度を与えて呼吸器へと届けられる。
鼻腔の一香奥で上部の「天蓋」にニオイの元である空気中の分子をキャッチする仕組みがある。
 
短い毛を持つ嗅細胞が1000万個並んでおり、様々なニオイをかぎ分ける。
嗅細胞には400種類あり、反応する嗅細胞の組み合わせで多くの分子を区別できる。
 
嗅細胞がキャッチした情報は、鼻腔のすぐ上にある「嗅球」という部分で処理されてから脳に送られ「ニオイ」として感じられる。
この嗅覚を感じる仕組みの、どこかに異常があるとニオイを感じにくくなる。

亜鉛不足も一因
最も多い原因は副鼻腔炎
鼻腔に隣接する骨内の空洞に起こる炎症性疾患だ。
鼻腔の粘膜があれやすい喫煙者に多く、粘膜の腫れや鼻茸と呼ぶべきもので空気が嗅細
胞に届かなくなり、ニオイを感じなくなることが多い。
花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎でも同じ障害が出ることがある。
 
嗅細胞の働きそのものが損なわれることも。
風邪などのウイルスが嗅細胞を傷つけてしまうと、症状も重く改善しにくいこともあ
る。
味を感じる舌の昧蕾(みらい)同様、飲み薬の影響などで体内の亜鉛が不足し、嗅覚障
害が起きることが知られる。
 
ほかに、脳と神経の異常でも起きる。
転倒などで頭を強打したときの脳挫傷の影響で嗅細胞と嗅球との接合が壊されるとニオイを感じにくくなる。

また、最近ではアルツハイマー病の症状の一つとして嗅覚の異常があると指摘されている。
  
過信は禁物
嗅覚障害は命に直接関わらないため医療の対象として考えられにくかった。
今は知識も普及し、積極治療をする医師も増えてきた。
ただ、問題は自分の症状に気づきにくいということだ。
嗅覚は時間とともに感覚が鈍る性質があり、どれぐらい強く感じているか分かりにくい。帰宅直後に気になった部屋のニオイもすぐ分からなくなるのと同じだ。
 
嗅覚障害外来では「基準嗅力検査」というニオイの強さが段階的に異なる試薬を嗅いで嗅覚の強さを判定する。
「自分は大丈夫」と思っている人でも、かなり嗅覚が衰えていることがある。

副鼻腔炎でも、一般の検査では気づかれにくいこともある。
ニオイが分かりにくいと訴える患者にコンピューター断層撮影装置(CT)などで検査してはじめて明らかになることもある。
嗅覚の不安は、早めに耳鼻咽喉科で相談することが大切だ。
 
また、鼻づまりを放置して嗅覚細胞を使わないままでいると、嗅覚そのものが衰えてしまう。
香り豊かな生活を楽しむには、日ごろから嗅覚を大切にすることが大切だ。
まずは禁煙し、花、の香りをかぐなどで鍛えよう。
花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎についても適切なケアと治療を心がける。
 
食事は、偏食せずにカキや豚レバーなど嗅細胞の新陳代謝に必要な亜鉛を豊富に含んだ食品や、イワシシジミなど末梢神経の維持に必要なビタミンB12を多く含む食品を積極的に取り入れるようにしたい。
 
肥満や高血糖、風邪の後にも注意
忘れてならないのは、適切な体重管理や定期的な運動習慣で、メタボリックシンドロームを予防すること。
血糖値が高い状態が長く続くと、末梢神経のしびれなどまひ症状が起こる。
嗅細胞も影響を受ける組織の一つだ。
 
繊細な嗅覚。
ニオイが無いと生活の味わいが薄れるだけでなく、万が一のガス漏れや腐った食べ物に気づくのにも支障が出る。
嗅覚異常は副鼻腔炎など、病気のサインでもある。
普段から「香りを楽しむ」生活を心がけることが、嗅覚障害の予防と病気の早期発見につ
ながるかもしれない。

出典
日経新聞・朝刊 2015.12.5